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大学年金ニュース
第72号 2010年4月30日発行
ホームページ http://nenkin.earth.edu.waseda.ac.jp/
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2009年度の財務監査が始まる
早稲田大学の資金運用の不透明と無責任体制に
厳しい監視の目を!
次期理事会に引き継がれる“負の遺産”の実態は?
(PDFファイル:全51頁2MB)
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早稲田大学の資金運用は危険な状況にあると推測せざるをえない。「時価のない有価証券」と「満期保有目的の債券」の区分を都合よく利用して貸借対照表に注記し、実態がわかるように伝えていない。 危険であると推測する具体的理由は以下である。@外貨建て元本の債券に400億円近くをつぎ込んでおり、しかも外貨のまま保有する方針である。Aその半分以上は2つの通貨を利用した仕組債である。Bリーマン・ショック以降、早期償還される条件を満たさない債券が多く存在する可能性がある。C「時価のない有価証券」を2008年度末で320億円も保有しその評価額をあいまいにしている。Dこれらを損切りできなければ、満期(30年間)まで保有しなければならない状況かもしれない。そして、E保有債券の具体的内容が一切秘密にされている。 債券の内容に加えて、資金運用体制に以下の問題がある。F1000億円もの巨額の資金(早稲田大学の1年の予算額に相当する金額)を財務担当常任理事の権限下で、財務部長・資金運用担当課長のわずか3名で運用している。G理事会への結果報告が義務付けられているだけで理事会の監督がない。H明確な資金運用規程がない。I責任体制がないに等しい。J2008年度監査で大学監事が設置を勧告した「資産運用委員会」を作るつもりがないことを総長が明言した。 そして、以下の点も疑問を投げる要因である。K資金運用担当者の説明に一貫性がなく、信頼性がないため、真実が把握できない。Lこれを監査しているはずの監査法人が、2008年度の財務監査から準大手監査法人がはずれ、小規模監査法人1社だけによる監査になった。そして最重要問題は、M情報開示が決定的に不十分であること。 以上の状況を知れば、誰が見ても早稲田大学の資金運用が危険な状態であることを認識することであろう。そして、この状態は11月に発足する次期理事会に現白井理事会の負の遺産としてそのまま引き継がれることになるであろう。 |
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目 次 2005年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記 2006年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記 2007年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記 2008年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記 資産運用収入の推移と問題点 仕組債が“塩漬け”になったとしたら パワーリバースデュアルカレンシー債(PRDC債)の特徴 おかしな説明の例 文部科学省による注意喚起 小藤康夫(2009):私立大学の資産運用と仕組み債 吉本佳生(2009)著「デリバティブ汚染」での厳しい指摘 金融商品取引法上の投資家区分 開示された1つの仕組債の部分情報 コール条項についての理事会の理解 |
注:本ニュースで取り上げた資金運用は早稲田大学本体によるものであり、早稲田大学年金基金の運用ではありません。
大学年金ニュース第69号と同様に、本号で取り上げる内容は早稲田大学年金とは直接的に関連するものではない。しかし、早稲田大学本体の財政・大学運営に深刻な影響をもたらす危険性のある重大事項であるので、「知る会」が調査し現在把握していることを紹介しておくことにする。
早稲田大学の2009年度財政決算はどうなるのか。仕組債による資金運用の評価損はいくらになっているのだろうか。大学年金ニュース第69号で早稲田大学の資金運用の問題点を取り上げてからほぼ1年半が経過した。当時は、駒澤大学の154億円もの損失が話題になった直後であった。しかし、駒澤大学の場合、速やかに対応策を講じ、損失を確定してそれ以上損失を拡大させなかったことで適切な対応であったことを指摘した。早稲田大学の場合は、理事会の説明が多少なされたものの、他大学の状況とは異なり資金運用に問題はないとの主張が繰り返されてきた。しかし、これらの説明が信頼に値するものではないことが 、その後、徐々に明らかになってきた。
私立大学の資金運用問題が明るみに出て以降の、早稲田大学の資金運用に関する情報については、早稲田大学教員組合ミニ・ニュース速報No.3(2010年1月20日)にその概要がまとめられている。大学年金ニュース第69号で問題指摘をして1年半が経過した現在でも、同じ指摘をしなければならない状況であることは極めて残念なことだ。
理事会の説明は、リーマン・ショック直後頃までは、資金運用の“自慢話”的な色彩が強かったが、その後、社会の目が厳しくなり、学内でも問題指摘の声が上がるにつれ徐々に弁解、責任逃れに変質していった感がある。
私立学校法第47条は、学校法人に対して年度終了後2カ月以内に大学の決算報告書を作成することを義務けており、多くの私立大学が2009年度決算を公表する時期が迫ってきた。早稲田大学でも5月28日(金)に予定されている評議員会において、2009年度の財政決算報告がなされるはずである。一体どのような決算報告になるのだろうか。そして、評議員はどのような指摘をするのだろうか。注目すべき重要会議である。
2010年度は例年の決算報告と異なる状況がある。それは、4年に一度の早稲田大学総長選挙の年に当たることであり、白井総長は2期8年を務めたため11月に退任し、新たな総長による理事会がスタートすることである。既に総長選挙は公示されている。早稲田大学の資金運用は十分な情報開示がなされず、現理事会の説明責任は果たされていない。そして、理事会としての執行責任・結果責任をとることもなく、現理事会は2010年11月に任期を終える。現理事会が作った“負の遺産”は次期理事会に引き継がれることになる。しかし、現時点での資金運用についての結果責任は現理事会メンバーに対してもその任期終了後も責任追及はなされなければならない。
本ニュースは様々な観点から早稲田大学の資金運用の実態に迫ることを目的にしている。開示されている情報が決定的に少ない中で、推測にならざるをえない事項もあり、正確さを欠く点もあろう。しかし、それも情報開示の不十分さがもたらしたことである。早稲田大学の存続にも関わる巨額の資金運用という事の重大さを考えると、警鐘を鳴らことの重要性を最優先すべきであるとの判断に立ち、本ニュースを執筆した次第である。実態を最もよく知る立場にある早稲田大学理事会からみて、仮に、記述内容に事実と異なることがある場合、指摘・批判をいただくことは大いに歓迎することを付しておく。
ここでは、早稲田大学財政決算報告書に記載されているデータを基にして、これまでの資金運用の結果を紹介するとともに、2005年度の学校法人会計基準の見直し後に記載されるようになった貸借対照表の注記のひとつである「有価証券の時価情報」等についてとりあげ、その変化を解説することにする。
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表1. 2000年度以降の早稲田大学の有価証券購入・売却・保有データ(単位:円) |
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年度 |
財務担当常任理事 |
有価証券購入支出 |
有価証券売却収入 |
有価証券保有額合計 |
時価なし有価証券の合計 |
時価なし有価証券(満期保有目的) |
円/米ドルレート(年平均) |
|
2000 |
關 |
3,264,575,979 |
3,287,319,972 |
注記なし |
注記なし |
注記なし |
|
|
2001 |
關 |
4,498,011,355 |
3,354,382,329 |
注記なし |
注記なし |
注記なし |
120.95 |
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2002 |
關 |
4,694,933,517 |
4,758,121,982 |
注記なし |
注記なし |
注記なし |
125.61 |
|
2003 |
關 |
2,617,499,410 |
4,491,605,193 |
注記なし |
注記なし |
注記なし |
116.41 |
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2004 |
關/小林 |
8,154,429,393 |
3,639,617,433 |
注記なし |
注記なし |
注記なし |
108.28 |
|
2005 |
小林 |
6,118,753,873 |
4,981,335,933 |
59,335,875,619 |
28,333,299,198 |
20,374,816,931 |
109.64 |
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2006 |
小林 |
14,661,300,714 |
9,896,703,136 |
69,559,431,817 |
40,428,174,747 |
32,463,344,296 |
116.25 |
|
2007 |
小林 |
3,335,471,668 |
7,125,884,441 |
67,864,882,957 |
39,360,082,107 |
31,041,816,970 |
117.93 |
|
2008 |
小林 |
4,024,143,024 |
10,084,062,151 |
61,693,486,266 |
32,928,107,606 |
24,664,500,000 |
104.23 |
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2009 |
小林 |
? |
? |
? |
? |
? |
93.52 |
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注1: 2005年度以降、学校法人会計基準の改正に伴い貸借対照表に有価証券情報を注記するようになった。 注2:円/米ドルレート(年平均)は税関長公示レート |
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表1は早稲田大学財政決算報告書から引用した有価証券の購入・売却額、有価証券の保有額、時価がない有価証券の保有額、満期保有目的の有価証券の保有額を年度ごとにまとめてものである。2004年度以前は有価証券の時価情報は公開されていない。有価証券のかなりの部分が為替リスクを内包する仕組債等と見られるので、参考に財務省貿易統計ホームページに掲載されている税関長公示の米ドル−円レートの年平均値を右側の列に表示した。
表1の第2列目には財務担当常任理事の名前を書いてある。2人の財務担当(關:関昭太郎、小林:小林栄一郎)はいずれも金融業界出身であり、關昭太郎は証券会社元社長、小林栄一郎は大手銀行銀行元副頭取の肩書をもつ。早稲田大学ホームページでの理事紹介によれば、現財務担当常任理事小林栄一郎は、サブプライムローン問題で経営危機に陥ったAIGの完全子会社であるAIGスター生命の顧問を現在でも兼職している。早稲田大学の財政は事実上、關・小林の2人の人物に握られ、動かされてきたと言える。
2004年の秋に早稲田大学の財務担当常任理事は關昭太郎氏から小林栄一郎氏に代わっている。これに対応するように有価証券購入支出が際立って多くなっていることがわかる。資金運用の原資は、第3号基本金(奨学基金、研究基金、国際交流基金)引当資産、退職給与引当資産、施設整備資金等引当資産、等々である。
關昭太郎から小林栄一郎への財務担当常任理事の交代は早稲田大学の資金運用の方針を大きく変えることになったと言えよう。事実、小林理事本人が「有価証券の運用は私が現職に着任した04年以降、銀行預金7割、運用3割の割合を、運用7割、預金3割に逆転させた。」(金融ビジネス2008年秋号より)と述べていることからも明らかである。多分、この頃から早稲田大学は多額の仕組債の購入を始めたと見られる。早稲田大学の資金運用に関して關前財務担当常任理事と小林財務担当常任理事との違いについては、福光寛(2007:成城大学経済研究第167・168合併号)に詳しく述べられている。
●2005年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記
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2005年度から学校法人会計の一部改正があり、貸借対照表の注記として「有価証券の時価情報」が記載されるようになった。ただし、これは合計金額だけであり、一体どのような有価証券を保有し、どのようなリスクを伴うものが含まれているのかは全くわからない。有価証券の時価情報を記載するように変更されたこと自体少しは改善されたと見ることができるが、このように大雑把な金額を並べただけでは、その実態を把握することは全く不可能である。この金額を信頼するか否かは財務監査を担当する監査法人(2007年度決算までは東陽監査法人・青南監査法人の2社各2名計4名の公認会計士、2008年度は青年監査法人1社2名の公認会計士)の監査の信頼度だけに依存することになる。
有価証券の時価情報が注記されるようになった2005年度において既に有価証券の保有総額は約593億円に達しており、そのうち半分近い約48%約283億円が「時価がない有価証券」に区分されている。この約283億円が本当に時価がない有価証券に区分してよいものであるか否かについては疑問がある。本当に時価がつけられないとすると、いざとなった時に売却できないか、いくらで売却 できるかもわからない債券の可能性もあり、そこに大きなリスクが内包されていることになる。このような注記が許されてしまうならば、殆ど紙くず同然の有価証券をかなりの長期間(例えば、30年満期)にわたって保有していたとしても、それを表に出すことなく購入時の簿価で相当額の金融資産をもっているように見せることでできてしまう。大いに問題である。この注記を確認しているはずの東陽監査法人と青南監査法人はこの取り扱いを適正であると認めていたことになる。
また、「時価がない有価証券」の内、「満期保有目的の債券」が約204億円もある。本当に満期保有目的であるかは疑問である。その後の大学による説明によれば、これらの債券のほとんどが期限前償還を前提とした仕組債であるとされている。つまり、満期保有目的は時価がない有価証券を購入価額で帳簿に記載し続けるための方便に過ぎなかったことが露呈しているのだ(詳細は5.を参照)。どうしてこのような扱いが許されるのだろうか。一体、監査法人はどのような監査をしていたのか。見解を問いただしたいところである。
2005年度以後の貸借対照表注記とその変化について注視すべきであろう。
●2006年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記
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2006年度も前年度と同様の記載方法である。有価証券の保有額は合計約696億円に達している。保有する有価証券約696億円の半分を超える約58%の約404億円が「時価がない有価証券」に区分されている。そして、その内の約80%約325億円が「満期保有目的の債券」に区分されている。“時価がなく、満期保有目的”の債券が極めて都合のよい分類区分として利用されているとしか思えない。
仮にこれらの有価証券を売却するとしたら一体いくらの値がつくのかについては誰でも気になるところだ。売却できずに“塩漬け”になるか、売却できたとしても買いたたかれて大損失を出すのではないかとの危惧がうまれて当然であろう。
貸借対照表の注記の有価証券の時価情報に「時価がない有価証券」という区分が許されていることは、リスクの高い劣悪な債券を保有し危険な資金運用をしていたとしても、またその運用の大失敗をしていたとしても、それらのことを隠す役割を果たしており、資金運用担当者の責任逃れ・責任隠しに使われてしまうと見ることができる。
●2007年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記
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2007年度は2006年度にくらべ、注記の「注」による記載が僅かに増えている。その(注1)には“(注1)この計上額には元本毀損リスクのない複合金融商品が含まれている。”とある。2005年度、2006年度にはその記載がないので、記載通り読めば“複合金融商品”(仕組債等)が含まれていなかったとなる。しかし、2005年度,2006年度はその注がなかっただけであり、実際には巨額の仕組債等を購入していたと見られる。“元本毀損リスクのない”と断言しているが本当だろうか。仮に満期時に元本が円で償還されたとしても、30年もの長期間の貨幣価値の変動を考慮したならば、実質的には大きく毀損していることになる。しかも、2009年になって大学が説明した内容によれば、“満期時には元本は外貨(米ドル、豪ドル)で償還される。円転するつもりはない。”(早稲田大学職員組合ニュースNo.1580参照)とのことであった。円で償還されるのは期限前償還オプション(大学の説明によれば、通常、2〜3年または3〜5年とのことである)が行使された時である。2008年後半からは世界金融危機で円高状態が続いているため、期限前償還の条件は満たしていない債券が多いと見られる。つまり、30年後の貨幣価値の下落と予想等できるはずもない30年も先の為替レートの影響をもろに受けることになる。とんでもないハイリスクの有価証券を多量に保有していることになる。大学はこれを繰り返しミドルリスクミドルリターンと言い続け、この資金運用の正当性を主張している(例:Campus Now 2009年盛夏号10頁)。
この年度の注記で、初めて巨額の資金運用の原資についての記載がなされた。ただし、「各種引当資産」と大雑把に書かれているだけである。
2007年度決算までは、東陽監査法人(準大手)と青南監査法人の2社が長年にわたって早稲田大学の財務監査を担当してきた。しかし、突如、2008年度の監査から準大手の東陽監査法人がはずれており、小規模監査法人である青南監査法人1社による監査となった。何故、準大手の東陽監査法人が監査人からはずれたのかについては大いに疑問がもたれたが(「知る会」速報2009060801参照)、2008年度決算を提示した2009年5月22日の評議員会においても、その理由の説明はなかったようである。
●2008年度貸借対照表の有価証券時価情報に関する注記
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2008年度決算は、リーマン・ショック後に私立大学の資金運用で多額の損失を出したことが社会的に大きな話題となってから最初の年度である。有価証券の時価情報の注記の「注」が更に増えた。資金運用の方針が前年度とくらべて大きく変更されたわけではないはずだが、より細かな「注」が書き加えられるようになった。同じ資金運用をやっておきながら、年度を追ってこのように少しずつ注記の内容が変化しているのは、一体どういうことなのだろうか。財務監査の信頼性に疑問を投げかける要因の1つである。情報を小出しにしていること自体が、情報開示に消極的であることの現れである。
この記載ではとても十分とはいえないが、2007年度までの説明が明らかに不十分であったことを示している。
「(注1)」として不動産証券化の投資額72.5億円が「時価がない有価証券」に含まれていることが初めて記載された。これは川崎駅西口地区の再開発事業として、2001年度から早稲田大学がダブリュー・ケー・シー特定目的会社を設立して不動産証券化に投資したものである。何故、2008年度決算からこの72.5憶円が「時価がない有価証券」に含まれるという記載をするようになったのだろうか。
「(注2)」には、「時価がない有価証券」約329億円の内、「満期保有目的の債券」約247億円があり、その内約220億円が複合金融商品であることが書かれている。つまり、時価がない有価証券の内、不動産証券化商品を除く分のほとんど全て(約9割)が複合金融商品、すなわち仕組債である。注2では、2007年度とくらべ大変気になる表現上の違いがある。
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●2008年度「時価がない有価証券(うち満期保有目的の債券)」の注: (注2)・・・・、債券は円貨100%で早期繰上償還される条項が付与されていること、および発行体は主要先進国政府機関・国際機関等で信用リスクはほとんどないことから、当該債券の元本毀損リスクは極めて低い。 ●2007年度「時価がない有価証券(うち満期保有目的の債券)」の注: (注1)この計上額には元本毀損リスクのない複合金融商品が含まれている。 |
「早期繰上償還の条項」については、2007年度には複合金融商品が期限前償還のオプションを付けられていることを伏せていたと見ることもできる。「満期保有目的の債券」に区分していることと矛盾した契約内容であることを自覚し、あえて注に記載しなかった可能性すらある。
また、元本毀損リスクについては、2007年度には“ない”と断言しているが、2008年度には“極めて低い”に変わっている。元本毀損リスクがないと断言した2007年度の説明は一体何だったのか。2007年度には、保有する仕組債のリスク分析が十分なされていなかったことを認めたことになる。
学校法人会計基準によれば、デリバティブ取引がある場合、注記7(2)として記載することになっている。2007年度までは、これに関する記述が一切なかった。2008年度になって注記7(2)のデリバティブ取引について、
“デリバティブ取引について注記対象となる取引はない。”
という文言がのった。仕組債にデリバティブが組み込まれていることは当たり前であるが、大学は大学自身がデリバティブ取引をしているわけではないとの理解(“屁理屈”)で上記の注記の表現になったのだろうか。それとも別の言い訳があるのだろうか。2007年度までは上記の文言すらなかった。同じ資金運用をやっておきながら、2008年度に上記のような注記の注を付け加えたのは、私立大学の資金運用に対する社会の厳しい目があったからかもしれない。あるいは監査法人からの指摘があったのかもしれない。
日本公認会計士協会による学校法人会計チェックリストの有価証券の時価情報およびデリバティブ取引に関しては、次の記述がある。
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「学校法人会計小六法平成20年版」(日本公認会計士協会編)より引用 |
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T計算書類の様式等のチェックリスト Z 貸借対照表 注記事項(その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項について) 15.重要性がある場合(学校法人の出資による会社に係る事項を除く)、以下の事項について注記されているか。 (1) 有価証券の時価情報 時価のある有価証券の貸借対照表計上額及びその時価並びにその差額が記載されているか。 (注1)時価が貸借対照表計上額を超えるものと超えないものとに区分して注記する。 (注2)特定目的の引当資産に含まれる有価証券も注記の対象とする。 (注3)満期保有目的の債券は、内書きすることが望ましい。 (2) デリバティブ取引 以下の事項が記載されているか。 @ デリバティブ取引の対象物 A 種類 B 当年度末の契約額等 C 契約額等のうち1年超の金額、その時価及び評価損益 (注)ヘッジ目的、投機目的にかかわらず注記する。 |
更に、文部科学省の学校法人会計問答集(Q&A)第17号「計算書類の注記事項の記載について[3]」には、デリバティブ取引について以下の説明がある。
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文部科学省の学校法人会計問答集(Q&A)第17号 「計算書類の注記事項の記載について[3]」より引用 |
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デリバティブ取引の会計処理 Q17 学校法人会計では、デリバティブ取引はどのように会計処理されますか。
A:
デリバティブ取引は、取引により生じる正味の債権又は債務の時価の変動により保有者が利益を得たり、損失を被るものである。例えば、為替予約取引、金利ス
ワップ取引があり、他社株転換社債、日経平均株価連動社債等のいわゆる仕組債もデリバティブが組み込まれた複合金融商品と考えられる。
Q18 デリバティブ取引の注記は、どのように記載するのですか。
A:デリバティブ取引の注記として、デリバティブ取引の対象物、種類、当年度末の契約額等、契約額等のうち1年超の金額、その時価及び評価損益を記載することとなる。当該取引がヘッジ目的であろうと投機目的であろうと注記する。 |
仕組債もデリバティブが組み込まれた複合金融商品であると、あえて指摘している。そして、契約金額又は決済金額に重要性がある場合は注記が必要であるとしている。そうすると、重要性があるか否かが問題となる。2008年度における大学が説明している仕組債の総額は約220億円である。この金額の大きさは、どう考えても契約金額に重要性があると理解されるはずだ。したがって、“会計年度末において時価の変動の影響を把握するために”その内容がわかるような注記する必要があるはずだ。しかし、早稲田大学では注記対象となるデリバティブ取引はないとしている。このような主張を許す背景には、保有する全ての仕組債を時価がない有価証券に区分していることがあげられよう。“時価がないのだから、年度末における時価の変動もなく、その影響もない。だから注記対象となるデリバティブ取引はない。”という論理なのかもしれない。いずれにしても、公表が義務付けられている学校法人の計算書類の本来の趣旨に逆行する抜け道的な開き直りの注記と言わざるをえない。
資産運用収入の推移と問題点:
表2には、財政決算報告書から引用した過去12年間の早稲田大学の資産運用収入とその内訳を示した。表1の有価証券保有・購入・売却データと照らし合わせて見ていいただきたい。
2004年度から2005年度にかけて資産運用収入がほぼ倍増していることがわかる。この変化を小林財務担当常任理事は自らの“功績”としてマスコミに語っていた。それが月刊「現代」(2008年12月号)に掲載された下記のインタビュー記事である。
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月刊「現代」2008年12月号155頁より引用 |
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小林氏の説明によると、早稲田大学の資産運用は次のようなものだった。まず、財務リストラによって増えた余裕資金1000億円のうち、700億円を外債中心のミドルリスク・ミドルリターンの「仕組み債」で運用している。利回りは年率5.3%。「(關氏から)引き継ぐ前には年間で8億5000万円だった運用益は、現時点で38億5000万円にまで増えた」(小林常任理事) |
表2を見ると、確かに小林理事が語っている通りに、前任者の關元常任理事時代に比べ運用益は大幅に増大している。それを、小林財務担当常任理事の功績としてだけ捉え、プラスの評価だけを下すことはできない。運用収益倍増の裏側にあるリスクを評価しなければならない。これを無視した議論は成り立たない。学校法人の公益性から考えても、本来、手を出してはならない領域に踏み込んでいった可能性もあり、そのリスクについて十分認識される必要がある。
月刊「現代」のインタビュー記事で気になるのは、
“700億円を外債中心の仕組み債で運用している。”
という発言部分である。これについては、3.の情報Aで再度触れることにする。
表2 過去12年の資金収支計算書記載の資産運用収入とその内訳(単位:円)
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年 度 |
資産運用収入 |
内 訳 |
|||
|
第3号基本金 |
受取利息・ |
施設設備 |
土地信託受取利息・配当収入 |
||
|
1997 |
1,869,506,304 |
1,041,437,447 |
328,027,301 |
499,557,466 |
484,090 |
|
1998 |
1,890,286,223 |
1,055,426,196 |
377,112,069 |
457,350,681 |
397,277 |
|
1999 |
1,507,062,735 |
868,836,017 |
149,384,682 |
488,724,623 |
117,413 |
|
2000 |
1,525,563,115 |
872,739,935 |
93,519,096 |
559,442,347 |
221,737 |
|
2001 |
1,537,091,808 |
882,837,910 |
96,402,561 |
557,553,539 |
297,708 |
|
2002 |
1,496,786,201 |
886,359,330 |
36,025,305 |
574,348,625 |
52,941 |
|
2003 |
1,438,775,933 |
770,809,840 |
39,184,105 |
628,754,444 |
27,544 |
|
2004 |
1,485,721,270 |
466,733,561 |
348,779,772 |
670,171,895 |
36,042 |
|
2005 |
2,806,445,033 |
477,801,136 |
1,678,741,944 |
649,826,787 |
75,166 |
|
2006 |
3,479,985,826 |
477,112,552 |
2,323,914,345 |
677,997,304 |
961,625 |
|
2007 |
4,513,548,796 |
699,455,941 |
3,124,439,768 |
686,746,548 |
2,906,539 |
|
2008 |
3,484,011,787 |
704,299,491 |
2,074,760,902 |
701,942,472 |
3,008,922 |
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2009 |
? |
? |
? |
? |
? |
注:大学年金ニュース第69号の表に2008年度データを追加
大学は資金を運用するのは奨学金のためであると盛んに強調する(例:大学決算書貸借対照表注記参照)。目的が適正であると強調して方法に対する批判をかわそうとしているように見える。目的が正しくても方法が正当化されるわけではない。大学提供の資料(早稲田ウィークリー通巻第1196号参照)によれば、2004年度から2008年度までの資金運用収入総額からの奨学金への支出総額は36.1%に過ぎない。その一方で、施設の建設・維持管理等を含む大学諸事業には55.0%がつぎ込まれているのが実態である。資金運用の正当化のために奨学金を“出し”に使っているようなものである。
いずれにしても、現在の早稲田大学が保有する仕組債などの有価証券の価値変動に関しては、小林理事が資金運用に関する極めて重い責任を負っていることは誰もが認めるところであろう。「時価がない有価証券」として区分され、現在いくらの価値があるかもわからず、多額の損失を覚悟して途中売却または契約解除をしない限りその資金を引き出そうにもできず、正に“塩漬け”状態で、資産としての実質的意味をもなない有価証券と化している可能性すらあるのだ。そして、その資金運用の直接的責任者である理事が30年の満期保有を目的としていると言っているわけだが、30年後まで彼が責任を負い続けることはできないであろう。次期理事会に“巨額の負の遺産”を残すことになっている可能性が大である。
PRDC債等の仕組債では良く行われているようだが、仕組債の購入契約をした初年度は高い固定金利が保証され、その後は為替レートに依存する仕組みになっている。これは、売りやすくするために購入年度に高い運用益が得られるように 、金融商品に“工夫”が施されていると見るべきなのだ。その裏には何処かでリスクを取る必要があることを忘れてはならない。このような仕組債をたくさん購入すれば、誰が資金運用をしようとも、購入年度にはとりあえず高い運用収益が得られる。元銀行副頭取(専門家?)でなくともできることである。もし、過去に購入した仕組債が“塩漬け”になったとしたら、再び新たな仕組債を購入し、初年度の高金利を利用してその年度の運用収益を一時的に上昇させることは可能である。それを繰り返せば、担当責任者の任期中は問題を表面化しないで済ますことが可能となる。一種の中毒のようなものである。吉本佳生(2009)は「デリバティブ汚染」(講談社BIZ)の中で以下のように指摘し、警鐘を鳴らしている。
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「デリバティブ汚染」吉本佳生著(講談社BIZ、2009年7月刊)より引用 |
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仮に元の基金20億円でも30億円でも、いずれ結果は同じこと。最初は数億円の投資のつもりでも、成功すれば再び買うし、失敗すればもっと買うのだから。成功しているからこ そもっと買い増しするところもあるだろう。そうして運用体制などのチェックが甘い財団が、一度PRDC債にハマると、PRDC債の運用比率が時間とともに高まってゆく危険性は極めて大きい。PRDC債やFXターン債は、依存性の強い「金融麻薬」なのだ。 |
そして、とても恐ろしいことは、小林財務担当常任理事が2008年10月24日発行の金融ビジネス(秋号)において、現在の運用原資約1000億円を5年後に倍増したいと語っていたことである。
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金融ビジネス2008年秋号より引用 |
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具体的には、仕組み債主体の外債運用だ。目標利回りは3%以上、5%前後をねらいっている。いわば、ミドルリスクミドルリターンの運用で、07年度の運用実績は加重平均すると、運用だけでは約5%だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 資産運用の規模は今は約1000億円だが、今後5年間でこの原資を倍にしたいと思っている。 |
つまり、現財務担当常任理事の頭の中には、2013年度には約2000億円の資金運用を行うという計画があったということである。しかも、単なる構想のレベルとは考えられず、メディアの取材で敢えて語るくらいに現実的な計画であった可能性があり、それに向けた資金運用がすでに始まっていたと見るのが普通であろう。この金融ビジネス誌の取材を受けたのは、リーマン ・ショックの直前とみられるが、既に米国でサイブプライムローン問題が深刻化し、その影響を心配する声が専門家からも上がっていた時期である。そのような時期に、自らの資金運用の自慢話をして、さらに仕組債を用いた運用を2000億円にも拡大する計画をマスコミに話していたわけである。
一体、2000億円もの運用原資が早稲田大学のどこにあるのだろうか。そのような“余裕資金”があるのならば、早稲田大学に多額の補助金(税金)(2008年度決算で約122億円)を交付する必要はないはずだ。仮に、 小林理事が語ったように、5年で2000億円の原資を達成するためには、更なる危険な資金運用を推進しなければならないはずである。危険極まりない計画である。とんでもない人物が財務担当常任理事になっているわけである。
仕組債が“塩漬け”になったら:
財政決算報告書では資産運用収入の内訳が書かれており、第3号基本金引当資産の運用収入(奨学基金運用収入に対応)とそれ以外の運用収入である「受取利息・配当収入」が区分されてかかれている。これは下記の学校法人会計基準第19条に対応する記載であり、奨学基金の運用収入と他の運用収入を明確に区分して記載することが求められている(大学年金ニュース第69号参照)。
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学校法人会計基準 最終改正:平成19年12月25日文部科学省令第40号 (消費収支計算書の記載科目)
第十九条
消費収支計算書に記載する科目は、別表第二のとおりとする。
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早稲田大学の場合、第3号基本金引当資産は奨学基金と研究基金、国際交流基金であり、2008年度で約249億円(24,909,500,839円)である。したがって、第3号基本金 引当資産の運用は、2008年度で運用利回り2.8%ということになる。2007年度の第3号基本金は約248億円(24,752,032,022円)であり、その運用利回りは同じく約2.8%である。しかし、全体の資金運用の利回りはこれよりも高い結果であり、小林理事によれば2007年度は全体で約5%であったそうだ(金融ビジネス2008年秋号)。第3号基本金 引当資産の運用利回りが全体の運用利回りよりも低くなっているのは、奨学基金や研究基金であることを考慮して、より安全なリスクの小さい運用をしているのか、あるいは計算書類上そのように見せかけるテクニックを駆使している可能性がある。
2010年3月19日に行われた2009年度第11回春闘団交において、資金運用に関して理事会側から極めて重要な説明があった。
“第3号基本金引当資産の運用は他の運用と区分することなく、他の資産と一緒に運用している”
という説明である(早稲田大学教員組合ミニ・ニュース速報No.8 2010年4月19日参照)。つまり、奨学基金や研究基金、国際交流基金にも仕組債が含まれていることだ。学校法人会計基準の「受取利息・配当収入」に記載されている運用と区別せずまとめて運用している。それなのに、どうして奨学基金運用収入を区分して他の運用よりも低い運用益約2.8%として記載できるのだろうか。
仮に運用の状況が悪化し、第3号基本金引当資産の運用財産のほとんどが“塩漬け”状態になった場合、運用の果実で賄うことになっている奨学金の給付は、一体、どうなるのだろうか。仕組債のような市場流動性が極めて低い債券で運用している場合、大幅な損失を覚悟しない限り基金を取り崩して支出ことができない。奨学金の原資を確保するために基金以外の資金から補てんせざるをえなくなる。給付にも影響が出かねない。第3号基本金引当資産の運用と他の運用をまとめてやっているということは、学校法人会計基準第19条の定めに照らし問題はないのだろうか。計算書類を厳格にチェックしたはずの監査法人はこの点に関して、どのような意見表明をしていたのだろうか。
更に、問題なのが運用原資の中にある施設整備等引当資産はおもに第2号基本金に対応する資産の運用である ことだ。第2号基本金は学校法人会計基準第30条に以下のように、
「学校法人が新たな学校の設置又は既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭その他の資産の額」
と規定され、将来計画に基づいて組み入れることになっている。第3号基本金が継続的に保持することが義務付けられているのとは異なる。計画に基づいて将来建築する予定の校舎等のための資金として蓄えておくのが第2号基本金である。したがって、具体的な将来計画に裏付けられた資金の組み入れであり、これが仕組債の期限(満期)である30年もの長期を想定することなどありえないことだ。
仮に、運用している仕組債が長期にわたって“塩漬け”になった場合、貸借対照表上では資産があったとしても、建設資金などに使用することができない事態が発生する。これは第2号基本金の目的に反する。つまり資金がショートし、将来計画がとん挫する可能性があるのだ。それを回避するためには運用に用いている仕組債等を途中解約するか、極めて不利な条件で売却をせざるをえず、大きな運用損(実損)を発生することになる。当然、理事会はその責任を取らなければならなくなる。しかし、巨額の運用損の責任など取れずはずもなく、もちろん取りたくもないであろう。結局、理事会は責任を回避するため、計画を縮小しながら年度の予算執行の節約(シーリング)を行い、任期末まで問題の先送りをすることになるであろう。校舎建設・改修計画などは中断または中止とならざるをえなくなる。そして、このような状況がそのまま新総長の元に発足する次期早稲田大学理事会に先送りされることになるのだ。現理事会の残任期はあと6カ月となった。このような推測は決して非現実的とは言えない状況である。
このような事態が、無責任な資金運用で起こる可能性がある。早稲田大学が現時点でこのような事態に陥っていない保証はどこにもない。こんな指摘が無用な心配であると反論するには、早稲田大学の資金運用の全ての詳細情報を開示し、真実を語る以外に方法はない。
私立大学の資金運用問題が明るみに出て以降の、早稲田大学の資金運用に関する情報のリストについては、早稲田大学教員組合ミニ・ニュース速報No.3(2010年1月20日)にその概要がまとめられている。早稲田大学の資金運用に関する大学理事会からの情報開示は極めて低レベルであり、理事会から提供される資料ではまったくその真実を把握することができない。2009年度春闘団交での資金運用に関するやり取りの中で、教員組合側からの問題指摘に対し、
白井総長は、
“そんなことは勉強しなくてよい。専門家に任せておけばよいのだ。”
と答えた。専門家とは財務担当常任理事や財務部長のことを指している。学問の府のトップとして見識を疑う発言であった。専門家かどうかも怪しいような人物が強大な財務の権限をもちながら、その説明責任が果たされていない現状があるからこそ、問題として取り上げられている。しかも、早稲田大学の資金運用の結果いかんでは、大学の将来に大きなマイナスの影響を残すことになる。そのような心配がある状況で、ただ理事会を信じなさいでは、話にならない。信頼できない状況を作ってきたのが自分たちであるとの認識が全く欠落している。こんな認識の人たちに巨額の資金運用を任せること自体が大きな間違いなのである。
教職員や学生とその保護者等利害関係人の不安は膨らむ一方であろう。財政決算報告や担当理事の説明に関連して、外部メディアからも批判をうける(例:週刊東洋経済2009年10月24日号、「デリバティブ汚染」吉本佳生著83-84頁参照)ような状態であることが実態を物語っている。
巨額の資金運用を行うに当たって、徹底した情報開示と説明責任を果たすことは必須の条件である。学校法人の経営が、学生納付金・税金(補助金)・寄付金を殆どの財源としていることを考えるならば、これは理事会にとっての最低限の義務である。しかし、早稲田大学の資金運用に関して、現時点で一般の教職員・学生が入手可能な情報は極めて乏しく、以下の4種に過ぎない。
l 情報@:
大学ホームページに公開されている財政決算報告書の貸借対照表の注記(2005年度から2008年度)
l 情報A:
大学広報誌Campus Now 2009年盛夏号「本学の資金運用の方針と現状」(2009年夏発行)
l 情報B:
学生向けニュース誌早稲田ウィークリー第1196号「知って納得! 大学の資金運用」(2009年10月8日発行)
l 情報C:
小林財務担当常任理事や財務部長等がマスコミの取材で話した記事等
2009年2月12日に職員組合と理事会との間で大学財政に関する懇談会が開催された。この懇談会の報告が、早稲田大学職員組合ニュースNo.1580として発行された。一般に公開されている媒体ではない。この中に理事会とのやり取りに基づく早稲田大学の資金運用の実態がある程度紹介されている。この職員組合ニュースが資金運用に関してもっとも詳細な情報を提供していると言えるが、それをそのまま信頼することはできない。それは説明内容におかしな点が少なからずあること、小林常任理事の当初の発言を総合すると、有価証券に関する具体的な書面による詳細資料が提示されない限り、実態把握は不可能であること等がその理由である。
この懇談会の約1カ月前の2009年1月16日には評議員会が開催されており、このときに資金運用に関する説明がなされたが、詳細を記した文書が配布されることなく口頭での説明に終始したとのことである。しかも、その内容は職員組合との懇談会のときにくらべて大まかな説明で、 あいまいさが残った。
教員組合は、資金運用に関してあくまで大学財政に関する団体交渉とすることを要求していた。しかし、2009年2月12日の会合が“懇談会”となったことから、これに参加していない。職員組合ニュースは懇談会から約1カ月後の発行であるが、発行前に原稿を財務部がチェックしているそうである。その点で、職員組合ニュースNo.1580は大学側の見解を忠実に反映していると受け止めることができる。
以下に、職員組合ニュースNo.1580と学内外に公開されている情報Aと情報Bについて、詳しく解説する。
早稲田大学職員組合ニュースNo.1580
以下に職員組合ニュースNo.1580に書かれている財務部長による仕組債についての説明のいくつかを紹介する。
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早稲田大学職員組合ニュースNo.1580 財務部長の仕組債についての説明部分より抜粋引用 |
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l 本学の場合は、「期限前償還条件付きパワーリバースデュアルカレンシー債」というものだ。 l 30年の期限だが条件が整うと2〜3年で円100%で償還できるようになっている。 l 期間は30年で円貨支払いになる。金利は円ベースでもらい、30年後は外貨で額面100%が償還されることになる。 l 金利は4%で初年度は確定し、2年度以降は為替レートの変動により、以下の計算式にしたがう Ø 18%×(利払い日の為替レートUS$/購入時の設定為替レートUS$)−14% = 6% Ø この場は6%になるが、上限を4%と設定している。 l 想定以上の円高になった場合には逆にマイナス金利になる場合もあるが、その場合は金利ゼロとして、本学から支払いが生ずることがないようにしてある。 l 4%から0%の間の金利設定にしてある。ここが先述のデリバティブと違うところである。 l 満期は30年後に元本は外貨ベースで100%受け取れる。しかし、30年間持つつもりはない。 l 「早期繰上償還条件付与」ということになり、例えば、受取利息の累計額が額面の8%に達した時点で、あるいは2〜3年後に一定水準以上の円安であれば、円ベースで額面100%で早期償還するオプションを付けている。 l 市場リスクは大きな変動があるものの、いずれ回復する蓋然性が高いリスクである。 l 債券を途中売却せず、満期または早期償還まで長期保有することによって、ほとんどの場合は元本割れを回避することができる。 l 今回の金融危機の中でも米ドルが相対的に強い。機軸通貨なのでやはりドル需要は強い。
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早稲田大学の仕組債が期限前償還オプション付PRDC債であることが述べられている。また、満期時には外貨で償還されると説明している。受取利息の累計が8%に達した時点で早期償還されるものもあるようだ。これはいわゆるターン債(TARN債)ではないのだろうか。
以下に、職員組合ニュースNo.1580に掲載されている職員組合からの質問に対する大学の回答を抜粋して紹介する。
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早稲田大学職員組合ニュースNo.1580 職員組合からの質問と大学の回答部分からの抜粋引用 注:下線・太字・赤字は「知る会」による |
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l 組合Q:保険としてのデリバティブの活用というのは、大学がデリバティブ取引をしているということか。 大学A:大学がデリバティブ取引をしているのではなく、発行体の方でおこなっていることだ。 l 組合Q:30年といった期限がいわれていたが、現在の保有期限はどのくらいか。 大学A:早期償還が多いので、実質的に3年から5年ぐらいからか。いろいろいりまじっている。 l 組合Q:2007年度決算の貸借対照表の注記に満期保有目的債券310億円のうち「元本毀損リスクのない複合金融商品が含まれている」とあるが、元本毀損リスクのあるものがあるのか。 大学A:元本毀損リスクのあるものはない。果実は減るが元本は毀損しない。円転するつもりはないので外債したものは米ドルの中でまわす。 l 組合Q:仕組み債では「期限前償還付きパワーリバースデュアルカレンシー債」の他にはないのか。 大学A:ほとんどこの形態だ。早期償還の方法が違うぐらいだ。 l 組合Q:外債投資・仕組み債については米ドル建てだけなのか。 大学A:外債投資は米ドルだけだが、仕組み債については米ドル・豪ドル基準の両方がある。ただ投資信託のものにはカナダ国債・ドイツ国債・オーストラリア国債・米国債などがまじっている。 l 組合Q:貸借対照表の注記にはデリバティブ取引を記載していない理由を再度確認したい。 大学A:デリバティブの契約を早稲田大学がやっているわけではない。一般的には、オフバランス取引単独で、レバレッジをかけていると大学経営に大きなリスクがあるので記載が義務付けられている。本学の仕組み債に内包されているデリバティブは、保険的なリスクヘッジ目的であり、レバレッジをかけているわけでもない。それ以上のものではない。貸借対照表の注記に「複合金融商品が含まれている」と記載してあるのがその意味だ。 l 組合Q:外貨建債券の今後の扱いをどのように考えているのか。 大学A:分散投資の意味からも満期償還したものはそのままの通貨で再投資して円転はしない。 l 組合Q:外貨建債券について、「満期が到来したら再び外貨建債券で再運用するので、元本は毀損しない」という説明だが、永久に外貨建債券で再運用するわけではなく、また仮にそうだとしても、円高になれば円建ての元本は毀損するのではないか。 大学A:基本的に外貨建資産は、保有し続ける。円100%資産に逆にリスクがあるからだ。先にも「外債投資をしているのは、少子高齢化、日本の国際競争力の低下、社会保障・医療制度などの構造改革の遅れによる巨額の財政赤字などの懸念から、円資産100%で良いのかという心配がある。そのため円安メリットを享受できる資産構成や分散投資を考えた。」とその理由を説明した通りだ。円高になり外貨建資産に為替評価損が生じても、円転(外貨から円に戻すこと)しない限り、それはあくまでも評価損であって実損ではない。いわゆる損失が確定したわけではなく、直ちに円建元本が毀損するわけではない。いずれ為替市場の変動で円安にいくと評価損は解消し、購入時の為替レートを上回った時点から評価益に転じる。また、逆に評価益が出たからといって、円転して為替売却益を出す予定もない。資金運用のポートフォリオは、分散投資の意味合いから10年〜20年というように長期の視点から運用しているのであって、短期的に為替益がとれるから資産を売却してしまおうという考え方はない。
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仕組債の殆どがPRDC債であることが、再度、確認されている。しかし、元本は外貨建て(米ドル・豪ドル)であり、一般的に説明されているPRDC債の理解とは異なる。元本外貨の債券で満期時に外貨で償還される。この場合、高い為替リスクを取っていることになるのだが、それを長期の期限30年を口実として、ごまかし説明をしている。外貨を円転しないとしている(注:学校法人会計では、「外貨建て有価証券」については年度末の為替レートで円換算した額を有価証券の時価情報のなかで注記することになっている。ただし、時価のない有価証券に区分してしまえばこの問題をクリアできてしまう)。円建て資産にリスクがあるとの認識である。しかも、為替は10年〜20年で元に戻るので、問題はないとしている。
巨額の資産を外貨で保有するということに異常なまでの拘りである。これは学校法人会計 に照らしても明らかにおかしい。多分、責任逃れのための言い訳の可能性が大きい。外貨で数百億に及ぶ資産をもつことはできないはずなのだ。運用原資の内第2号基本金に対応する引当金は校舎の新築・改修、キャンパスの取得などのために計画に基づいて積み立てておくべき資金であり、計画実行時にはそれが“円”で支払われることになる。この点が第3号基本金引当資産の運用とは位置づけが異なる。また、退職給与引当資産も退職金のための積み立てであり、退職金がドル払いにでもならない限り、円で支出されてゆくものであり、仮に大量の退職者が出た場合、退職金を円で支払うことができなくなる事態も考えられる。
満期保有で外貨元本が保証されるので元本毀損リスクがないとする。長期的な視点での為替の変動に対しても長期的な運用であるので、問題ないとしている。しかし、説明には内部矛盾がある。長期的な運用を考えて満期保有としているにもかかわらず、短期の為替レート(円安)に連動して早期償還されるオプションをわざわざつけていることである。円安に振れて早期償還されるということは、発行体側が“いいとこ取り”をしているということだ。投資家である早稲田大学側にとっては、為替レートの短期的影響を直接的に受けて更なる運用益を継続的に得ることにストップをかけられてしまうという意味だ。
以上の説明からもわかるように、早稲田大学の資金運用は為替リスクを積極的に取った、しかも円安を大前提にしたリスクの高い運用であるとみるべきであろう。2008年9月のリーマン・ショックは大きな円高状況を作り、現在でもその状況はあまり変化していない。根拠の希薄な円安予測論に基づいて、巨額の資金を仕組債等につぎ込んだことの影響がこれからじわじわと出てくる可能性がある。ただし、その時には現在の白井総長の理事会は既に任期を終えていることになる。
情報A:Campus Now 2009年盛夏号「本学の資金運用の方針と現状について」8-10頁(2009年8月発行)
早稲田大学は2009年夏になって、ようやく大学の資金運用に関する説明を広報誌に掲載した。これが表記の記事であり、A4で3頁の解説文である。2008年度の決算報告書が公開された後である。既に紹介した職員組合との懇談会での説明に近い。ある程度具体的な説明となっているが、相変わらず詳細を把握することはできないだけでなく、これまでの説明とも矛盾する点もあり、信頼できる説明かどうかは大いに疑問である。
まず、冒頭に以下の運用原資に関する説明がある。
“資金運用の対象となる資金は奨学金、研究助成および国際交流などのための第3号基本金引当資産、施設整備資金など引当資産、退職給与引当資産、特定目的引当資産などの主に各種引当資産として保有しているものです。”
そして、有価証券の保有残高については、1998年度末と2008年度末を比較して解説している(下図参照)。年度末の保有有価証券の内訳金額と割合が書かれている。
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Campus Now 2009年盛夏号より引用 |
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図から明らかなように、有価証券の保有残高が10年で倍以上に増えていることがわかる。この図ではわからないが、2.でも紹介したように有価証券保有額の最高は2006年度末の約696億円である。ここで提示された情報は財政決算報告書の貸借対照表の注記では把握できなかった内容であるが、詳細な実態の把握はできない。
外債と円債・短期商品を合わせ、2008年度末には約500億円に達する。円債・短期商品のうち約219億円が仕組債とされている。外債はその内容が明確ではない。説明文章において、
“内外金利差に着目し、5〜6%クーポンの米国10年国債を中心とした外債投資を本格的に開始し、徐々にカナダ・オーストラリア・英国などの先進主要国の国債などに分散した外債投信、・・・・”
と記載されていることから推測するしかない。データが提示されていないので実態は依然として不明である。円債・短期商品(内仕組債約219億円)に区分されている約332億円だけでなく、この外債168億円がはたして安全な金融商品であるのかは大変気になることろだ。
月刊「現代」2008年12月号での発言との矛盾
このCampus Now2009年盛夏号の有価証券の保有金額内訳と割合については大いに疑問が残る。それは2.で紹介した小林財務担当常任理事が月刊「現代」2008年12月号の取材で語った下記の文言との矛盾である。
“700億円を外債中心の仕組み債で運用している。”
という発言は一体何だっただろうか。
ある程度大まかな話としてマスコミに語ったとしても、財務担当常任理事という役職をを考えると、まったくのデタラメ発言と否定し去ることはできない。しかも、私立大学の資金運用の問題が社会に報じられる前であることを考えると、むしろ月刊「現代」での発言の方が真実を語っている可能性が高いのではないかとも思えてくる。月刊「現代」の記事の取材は多分、リーマンブラザース破綻のニュースの少し前であったのだろう。既に、米国でサブプライムローン問題が深刻化して1年経過していた時期である。そんなタイミングで敢えて、早稲田大学の資金運用の自慢話をするくらいだから、余り用心深さのない状態であったと見られる。そんな財務担当常任理事であれば、マスコミの取材にも警戒心なく実態を話していた可能性が高いのだ。運用原資を5年後に倍増する(2000億円)との発言(金融ビジネス2008年秋号)も同様の状況であったのだろう。
この月刊「現代」の記事以降、大学の説明や提供資料は、この自慢話ともとれるマスコミへの説明を引っ込めて、徐々に縮小化するような傾向になってきた。
このCampus Now 2009年盛夏号の図の、2008年度末の金額等、
l 有価証券保有額:約617億円
l その内仕組債(円債・短期商品に区分):約219億円
l 外債:約168億円
を見ると、“700億円を外債中心の仕組債で運用している”という発言との違いはあまりにも大きい。約10カ月前の小林理事発言を否定する内容である。“外債中心の仕組み債”と言っていたのに、仕組債は円債・短期商品に区分され、外債とは別区分となっている。仕組債の金額も約700億円から約220億円(1千万円の桁を四捨五入)に変化している。未だに、“700億円を外債中心の仕組み債で運用”という小林理事発言が実態を語っていたのではないかという疑念は払しょくできず、返ってCampus Now 2009年盛夏号の説明に疑問を抱くことになる。
ブラックボックスと化した有価証券資産
2008年度末で既に前年比で評価損(実態は極めてあいまい)を出しているわけだが、現時点における早稲田大学の有価証券資産がどの程度の価値をもち、今後その価値がどう変化してゆくのか、そしてこの中にいわゆる“塩漬け”状態の債券がどれだけあるのかまったく把握ができない。まさに数100億円の有価証券がブラックボックスの中あるようなものだ。現在入手できる程度の情報を出すのみでは、巨額の資金運用に関する説明責任を果たしているとは言えない。
Campus Now 2009盛夏号のおかしな説明事例
Campus Nowは大学の広報紙であるが、その一部は大学のホームページでも公開されている。本号もその1つである。この中には説明におかしな点が多々ある。説明されていない事項も含め、以下に気になるいくつかの例をあげる。“”で囲まれた部分は説明文の引用である。
l “金利リスクおよび流動性リスクについては、本学の債券運用が期限前に途中売却しない満期保有目的を前提にしているため、満期償還時あるいは早期償還時に額面100%で償還されることで回避します。” 塩漬け状態になったらどうするつもりなのか。殆どすべてに期限前償還オプションが付いているということなので、円安である程度の金利が得られる状況であれば、すぐに償還されてしまうということだ。言いかえれば、PRDC債等を長期に保有しているということは、早期償還の条件を満たしていない結果であるので、既に損失を出しているということに他ならない。
l 早稲田大学の仕組債がPRDC債であることに関して、“本学の場合一例で言えば「期限前償還条項付きパワーリバースデュアルカレンシー債(早期償還時元本=円で受取、金利=円で受取)」というものでほとんどが30年債で、利払日に一定の為替水準であると円100%で早期繰上償還されます(2-3年での早期償還を想定)。”とある。 早稲田大学の運用に用いられている仕組債は本当にPRDC債がほとんどであるとされているが、本当にそうなのだろうか。大いに疑問がある。特に、元本が外貨であり満期償還時に外貨で償還されるものがほとんどのようである。これらは一般に言われているPRDC債ではないであろう。パワーデュアルカレンシー債ではないのだろうか。
l 30年の満期時に償還されるときの通貨が外貨であるという説明がどこにもない。既に触れたが、早稲田大学の仕組債はPRDC債であるが元本が外貨であるという説明は職員組合との懇談会や2009年度春闘団交でも確認されている。
l 過去20年間の米ドル、豪ドルのレートの変動をグラフで示した上で、“円高局面で一時的に評価損が生じても、時間さえあれば回復あるいは評価益に転じる可能性が高く、5-10年間の長期的視点に立てば、為替リスクはかなりの程度抑制できます。”こんな為替レートの変動予測は信頼できるか否かのレベルの話ではない。こんなレベル説明が通るのならば、為替相場で損をする投資家もいないはずだ。
l “運用の世界では、長期投資で現金化を急がないことが最大のリスクヘッジでもあります。” 満期保有するから元本毀損はないという主張と同様である。こんなことを主張する前に、この資金運用の原資が何であるのかをもう一度良く認識すべきである。しかし、これだけ高額の有価証券を保有しているのに現金化できない状態が続いても資金繰りは大丈夫なのか。大いに疑問である。施設整備等引当資産は第2号基本金に対応する引当資産である。これに影響が及ぶならば、現時点の校舎建設計画を着実に実行するための資金が得られなくなり計画の中断、中止といった事態も十分に考えられる。
l 仕組債の販売手数料については一切触れられていない。仕組債は売る側は高額の手数料で儲けるといわれており、通常、最低でも額面の2-3%、数%程度がざらであるそうだ。高い場合には10%を超えるケースもあると聞く。早稲田大学は仕組債を購入するにあたって、一体どのくらいの手数料を支払っているのだろうか。利息の金額を考えると決して軽く扱えない金額のはずである。
情報B:早稲田ウィークリー通巻第1196号「知って納得!早稲田の資金運用」2009年10月9日
早稲田ウィークリーは在学生向け学内広報誌である。大学のホームページに掲載されているこの記事は、財務部長による解説として紹介されている。上記のタイトルで学生向けにこの記事が出た背景には、私立大学等の仕組債による資金運用に対する社会からの厳しい目があったのだろう。以下のような構成となっている
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早稲田ウィークリー通巻第1196号(2-3頁)目次 |
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〜知って納得!大学の資金運用〜 (1)大学財政の仕組み ◎大学の収入はどこから?学費?寄付?資産運用? ◎大学はどうやって資金運用をしているの? (2)資金運用収益の使途 ◎資金運用の利益は学生にどんな形で還元されているの? (3)資金運用の見方と評価 ◎どうやってリスクや運用を評価しているの? 財務部長より |
この内容が1頁半ほどに納められていることからもわかるように、詳細解説ではなく、タイトルにあるようにとても知って納得できる類ものではない。学生を子供扱いしている感が否めない。この記事について気付いた点を以下に列挙しておく。
l 早稲田大学の資金運用で重要な意味をもつ、仕組債、複合金融商品、PRDC債といった用語が記事の中に1回も登場しない。小林財栄一郎務担当常任理事が、自慢話のように早稲田大学の資金運用は余裕資金1000億円の内約700億円を外債中心の仕組債で運用している と、あれだけ強調していたのに不思議である。何故、学生にも早稲田大学の資金運用は仕組債を中心に行っていると書かないのだろうか。
l 用語CDS(クレジットデフォールトスワップ)やCDO(債務担保債権)については、早稲田大学ではそれらを用いた資金運用をしていないという説明で登場している。
l ミドルリスク・ミドルリターンを強調している。“本学の資金運用は債券を中心に、3〜4%の利率を目指した「ミドルリスク・ミドルリターン型」の、堅実で安定的な資金運用を行っています。”とある。しかし、現在の状況では仕組債が堅実で安定的な運用になるとは言えないはずだ。
l “円建て・外貨建ての債券が約80%を占め、・・・”と解説しているがその内容は不明。表には、「円債・短期商品:332億円、外債:168億円」とあるが、その内容が全く分からない。仕組債で運用しているとの解説がないことから、仕組債がその債券に区分されているのかも不明。
l “信用リスクは、発行体が倒産すれば元本が毀損しますので、優先的に回避しなければならないリスクです。特に外国の発行体については先進主要国の政府および政府系機関あるいは国際機関に限定しています。”と説明されているが、PRDC債のような仕組債の売り込みで顧客を安心させるためによくつかわれる常套句のようである。仕組債は発行体と投資家との関係だけではなく、仕組債を仕入れて売る証券会社等のアレンジャーやスワップ取引を行う機関等が介在するため信用リスクを発行体だけで測ることができない。また、発行体の名称から政府発行のようなイメージを与えるが、国債を除けば“政府系”金融機関である。政府系機関であるFannie MaeやFreddie Mac等がサブプライムローン問題で米国連邦政府管理下に置かれたことは記憶に新しい。既に、こような類い政府系機関で高い格付けを得ている機関であっても倒産リスクがあることを認識しなければならない時代である。
l “本学では、市場リスクの内為替リスクをとって収益向上を図っています。2008年度末の有価証券評価損益は28億円の評価損となっていますが、為替市場はこの20年間一定ゾーンで円高局面と円安局面を繰り返しており、円高で一時的に評価損となっても5〜10年間の中長期的視点で見れば十分に回復可能なものと考えられます。”とある。確かに為替リスクと取っているが、それがあたかもローリスクであるかのような印象を与える説明である。30年後に元本が外貨で戻ってくる債券などは“ウルトラハイ・リスク債券”である。
l 早稲田大学が保有する満期保有目的の債券の多くが仕組債であり、為替相場の円安状況を前提としたPRDC債がほとんどであるとすることが書かれていないことと関連し、保有する債券の流動性リスクについてはまったく触れていない。いわゆる“塩漬け”と関連する問題である。現状の円高状況では早稲田大学が保有する債券は、売ろうとしても売れない、流動性リスクが高い債券である。大学は当初、PRDC債の早期償還を前提としていたため、この流動性リスクを低減することができると考えていた。その大前提として、中長期にわたって為替相場で円安状態が続くとの判断があったと言える。
この早稲田ウィークリー「知って納得!」程度の情報で学生を納得させようとするのは、余りにも学生を馬鹿にしていると言わざるを得ない。総合大学である早稲田大学には、学部・大学院を含め資金運用やデリバティブを専門領域として学んでいる学生がいることを忘れているのだろうか。昨今では、理系の学生がこのような専門を扱う金融関係に就職するケースも多く、学生の関心レベルは決して低くない。しかも、自分の大学の財政に直接かかわる問題であるのならば余計である。
以上、3.で紹介したような情報では全く不十分であり、とても説明責任を果たしているとは言えない。現在の資金運用の正しい状況を把握することは困難であり、リスクの評価もできない。ここまで情報開示に消極的な理事会の立場を考えると、一体、資金運用でどのくらいの損失を被るのだろうかという不安は増大する一方である。満期保有であるから問題はない、実損を出したわけではない、と責任を回避するための常套句の主張を続ける小林財務担当常任理事や財務部長を信頼するには、その説明が余りにも稚拙であり、一貫性がなく自ら説明したことの矛盾にも気付いていないようである。
そして、上記資料で提供される情報程度で納得してしまうほど、昨今の資金運用に関して教職員・学生は無知ではないことを、理事会は知るべきである。仮に、早稲田大学の教職員や学生がこのような説明で納得してしまうレベルであるとするならば、早稲田大学が関連する専門の学科・学部・研究科をもつ資格はないと社会から批判されても反論はできない。
早稲田大学の資金運用は仕組債を中心に行われ、その多くがパワー ・リバースデュアルカレンシー債(PRDC債)とされる。パワー・リバースデュアルカレンシー債(PRDC債)の理論と仕組みについては、柴崎・山田(2004)、山田(2004)にわかりやすく解説されているので参照されたい。早稲田大学の場合、ほとんどが30年債であるらしい(Campus Now 2009年盛夏号参照)。しかし、これらのことが最初に判明したのは3.で紹介した2009年3月9日付で発行された早稲田大学職員組合ニュースNo. 1580であった。
一般に、リバースデュアルカレンシー債(PRDC債)はデュアルカレンシー債(デュアル債)とは逆に、元本を円建て、金利を外貨建てとし、その分、元本が円建てであることにより元本毀損リスクをなくした金融商品と説明されている。“デュアルカレンシー債”は元本が外貨建て、金利が円建てであり、元本毀損リスクが高いので、この元本を円建て(金利は外貨建て)にしてリスクを小さくしたものが“リバースデュアルカレンシー債”と説明される。その分、得られる金利が低くなるので、レバレッジをかけて、特定の円安条件を満たした場合、より大きな金利が得られるようになっている。これが“パワー(あるいはパワード)”の意味である。ただし、このような一般的なPRDC債の理解ではあるが、さまざまなバリエーションが存在するようである。一般的に知られているPRDC債の特徴を簡潔に、以下に列挙する。
パワー・リバースデュアルカレンシー債(PRDC債)の特徴
@ 2つの通貨を利用した金融商品である。円と豪ドル・米ドルを使った商品が多い。
A スウェーデン、ノルウェー、フィンランド等、ヨーロッパの政府系金融機関(例:ノルウェー地方金融公社)が発行体となっていることが多い。このことが売り出し時に債券の信用性の高さに使われることが多い。
B 基本的に円安・外貨高(米ドル、豪ドル等)のときに高い金利が得られるように設定されており、あくまで円安トレンドを大前提とした商品である。つまり、円高になれば、金利は低くなり、マイナス金利も発生しうる。
C 元本が円建て(デュアルカレンシー債の逆、即ちリバース)であり、それゆえ元本毀損リスクがないと説明されることが多い。
D 金利は外貨建て(デュアルカレンシー債は金利は円建て、即ちリバース)であるが、これを支払い時点の為替レートで円転する。
E 満期は長期間のことも多く、30年のものもある。
F 通常は契約の初年度に高い固定金利が設定されている。その後は為替レートに連動して、金利が定まる。金利がマイナスにやらないよう最低を0%とする設定もある。
G 期待される金利を大きくするため、ある一定の為替水準の円高・外貨安の場合に金利をゼロに設定し、その分、レバレッジをかけてある程度以上の円安状況のときに得られる金利を高くする設定がある。これがパワー(あるいはパワード)と呼ばれる意味である。
H 金利の上限が設定されるケースがある。
I あらかじめ定められた条件で、満期前に早期償還されるオプションであるコール条項が付けられることが多い。これは発行体の権利である。コール権、期限前償還権等とも呼ばれる。
J 追加保証金を求められることがある。
K 市場流動性が極めて低く、売却したくてもできないか、きわめて安い価格になる。
L 途中解約しにくい。途中解約した場合、損失が大きい。
M 早期償還されていない(為替の条件を満たしていない)PRDC債などの仕組債をたくさん保有しているということそのものが、すでにその債券の価値が下落していることの証と言える。つまり、このような長期保有の仕組債が大量に存在する状態は資金運用の失敗を意味する。
さて、大学発行の資料や財務担当常任理事や財務部長による資金運用や仕組債の説明であるが、実はかなり多くの不明な点がある。結局、現時点でも仕組債の詳細は不明のままである。大学の説明のなかで、おかしな事例のいくつかを取り上げてみる。
●おかしな説明の例1: 資金運用に使われた仕組債は早期償還オプション付PRDC債である。満期時には元本が外貨(米ドル、豪ドル)で100%償還される。
PRDC債には元本外貨建てのものもあるようだが、一般的には、元本は円建てである。“リバースデュアルカレンシー債”であると理事会により説明されているが、早稲田大学の場合は、これが円建ての元本ではないとの説明だ。PRDC債であるとしながら、このように外貨で満期償還されると説明するなど、理事会の説明は不明確であり、仕組債の内容を把握することができない。ほとんどがPRDC債と断言したのは何故なのか。大いに疑問が残る。
●おかしな説明の例2: 早期繰上償還オプションが付いているので、ある程度の円安条件を満たした場合、早期償還時には元本を円で受け取ることができる。“早期償還は早稲田大学側の判断で行使できる”と説明している。
通常、早期償還オプションはコールオプションとして設定されるもので、発行体側の買う権利である。したがって、早期償還は発行体側の判断で行使される。つまり、金融機関の都合のよいときに償還されるわけだ。しかし、早稲田大学の場合はそうではないと財務担当常任理事や財務部長は言い張っている。本当だろうか。早稲田大学側の都合のよい時に早期償還できるかのような説明をしている。これはウソであろう。これがウソでないとすると、誤った説明を見抜けなかったことになる。こんなレベルの説明を団体交渉の場でするような財務担当者であれば、金融機関の営業に何度でも騙され続けることであろう。
●おかしな説明の例3: 満期(おもに30年)まで保有するので問題はない。外貨は円転せず、そのまま持ち続ける。そして、ミドルリスク・ミドルリターン型の堅実で安定的な運用である。市場リスクのうち為替リスクを取りにいって収益向上を図っている。為替市場はこの20年間一定ゾーンで円高と円安を繰り返しており、円高で一時的に評価損となっても5-10年間の中長期視点でみれば十分に回復可能。長期的視点にたてば為替リスクはかなりの程度抑制できる。
巨額の外貨資産を円に戻さずに保有し続けることが許されるのだうろうか。学校法人会計、早稲田大学の財務状況に照らして極めておかしな不適切な方針である。早稲田大学にそんなゆとりはないはずだ。
財務担当常任理事は自信あり気に為替相場は一定水準に戻ると繰り返し主張している。ただし、その説明で用いられる時間幅はだんだん大きくなっている。彼の主張に沿えば、満期まで待っていれば、円-外貨レートは仕組債を購入した時のレートまたはそれ以上の円安になると予想していることになる。早稲田大学は2004年度から3年間で約290億円(多分、手数料等も含まれる)もの有価証券を購入している。特に、2006年度の購入額は約146億円にも達する。この年度の円-米ドルの平均は116円である。30年待てばこの水準に戻ると予想しているのだろうか。こんな予想には全く根拠がなく、信頼度ゼロであることは誰でもわかるであろう。つまり、30年にもおよぶ満期保有は、資金運用担当者の責任逃れの口実に使われているに過ぎない。
●おかしな説明の例4: 実損を出していないだろう!!
財務担当常任理事はこれを強調する。しかし、こんな説明で威張られてはたまったものではない。実損を出していないのは、いわゆる“損切り”をしていないからであり、またそれができない状態であるからと見るべきである。つまり、実損を出していないというのは、責任逃れのための問題の先送りである。職員組合と理事会の懇談会(2009年2月12日)では、小林財務担当常任理事が以下のことを述べている。
“他の私大では財政運用において実損を出している例があるが、早稲田では実損を出すような運営はしていないのでそのような心配は不要だ。”(職員組合ニュースNo. 1580参照)
“実損を出すような運営はしていない”とはおかしな説明である。実損がないような会計処理をして、時価がないと言い張って、問題を先送りしているに過ぎない。仮に、損失が増大しそうな状況下でも、仕組債の場合市場流動性が乏しいので、売りたくても売れない。結果として、まったく根拠のない大幅な円安時代が来ることを期待してじっと待つしか方法がなくなる。これがPRDC債の恐ろしい点である。つまり、既に仕組債のいわゆる“塩漬け”状態が始まったと見るべきなのかもしれない。
当然、ここで仕組債の時価評価が問題となる。しかし、時価評価については下記の例6のように、“時価がない有価証券”として取得価額をそのまま貸借対照表に記載することができれば、とりあえず表面上問題が無いかの如く見せることができるのだ。
その内、資金が不足し、建物建設計画も中断、あるいは中止という事態も想定される。その次に訪れるのは、資金繰りに困ってキャンパスを担保に多額の借金をせざるを得ない状況に追い込まれる事態であろう。そして、それを真の目的にしている金融機関がいるかもしれないことも十分念頭に置く必要がある。むしろ、早い段階で損切りをして損失を確定した、駒澤大学のような対応の方がより適切であり、“英断”であったといえるであろう(大学年金ニュース第69号参照)。それでも、新聞報道によればキャンパスを担保に大手銀行から110億円もの借り入れをしている。早稲田大学の財務担当者は、他大学のケースと早稲田大学 とは異なると強調する。しかし、それを信ずるには余りにも開示された情報が少なすぎるし、説明者の信頼度が低すぎる。
●おかしな説明の例5: 早期償還が多い。保有期間は3〜5年(2〜3年?)
時価がない有価証券と満期保有目的の債券の区分を悪用すると資金運用の実態を隠すことが可能となる。
そもそも決算書には満期保有目的の債券として区分されているにもかかわらず、その債券に期限前償還オプションが付けられいていることがおかしい。しかも、PRDC債等の仕組債の性質から考えて、あくまで期限前償還されることが大前提となっているはずである。本来、満期保有目的の債券として扱って決算書に記載してはならないはずの債券であろう。このことについては、次章で解説する。
これまで監査をしてきた監査法人の見解は?
そもそも、PRDC債のような仕組債を購入したのは、為替レートが円安方向になると読み、その場合2-3年で早期償還されることを前提としていたからであろう。実際に、職員組合との懇談会の説明で、保有期間に関する質問に“早期償還が多いので、実質的に3年から5年ぐらいからか。”と説明している。もともと30年もの長期にわたってその債券を保有するつもりは無かったはずだ。早期償還されることを前提としていたと見られる。したがって、満期保有に伴うリスクを認識し、早期償還によりそのリスクを回避できると想定していたというのが真相であろう。しかし、現状はそのシナリオが崩れた状態と見るべきである。
いずれにしても、満期保有する意思をもって購入していなかったことはほぼ間違いない。また、満期保有の意思やその条件も整っていなかったということである。それにもかかわらず、期限前償還オプション付の仕組債を満期保有目的の債券として扱ったことは、下記の公認会計士協会の見解と照らしても大いに問題がある。これまでに早稲田大学の財務監査をしてきた監査法人(2007年度までは、東陽監査法人と青南監査法人の2社、2008年度からは青南監査法人1社になった)はこの点についてどのような問題指摘をしていたのだろうか。
学校法人会計の貸借対照表には有価証券の時価情報を注記することが定められているが、その中に“満期保有目的の債券”という区分がある。日本公認会計士協会のQ&Aには満期保有の厳格な意味が以下のように説明されている。
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満期保有目的の債券 Q15有価証券の時価情報の注記に記載する、満期保有目的の債券の「満期まで所有する意思をもって保有する」とは、どのようなことをいうのでしょうか。 A 満期まで所有する意思をもって保有するとは、学校法人が償還期限まで所有するという積極的な意思とその能力に基づいて保有することをいう。保有期間が漠然と長期であると想定し保有期間をあらかじめ決めていない場合、又は市場金利や為替相場の変動等の将来の不確定要因の発生いかんにより売却が予測される場合には、満期まで所有する意思があるとは認められない。また、資金繰計画等からみて、満期までの継続的な保有が困難と判断される場合には、満期まで所有する能力があるとは認められない。 満期保有目的の債券を償還前に売却等した場合の注記 Q16 満期保有目的の債券の一部を償還前に売却した場合、あるいは満期まで保有しないこととなった場合、どのように注記するのでしょうか。 A 当初、満期まで所有する意思をもって保有していたが、その一部を償還期限前に売却し、残りについても満期まで所有する意思がない場合には、時価情報の満期保有目的の債券には集計しない。また、会計年度末において満期まで所有する意思がない場合においても、時価情報の満期保有目的の債券には集計しない。企業会計においては、例えば満期保有目的の債券の売買目的への保有区分の変更によって、評価基準を原価法から時価法へ変更しなければならないが、学校法人会計では評価基準は原価法であるため、保有目的を変更しても評価基準に変更はなく、実態に合わせて注記に正しく集計すればよいものと考えられる。 |
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文部科学省ホームページ:学校法人会計問答集(Q&A)第17号計算書類の注記事項の記載について[3]より引用 URL http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/001/002007.htm |
多分、大学は、期限前償還は売却ではないので、この批判には当たらないと反論するだろう。しかし、期限前償還オプションは通常コールオプションとして設定されているので、発行体が買う権利をもっていることになる。つまり、いつ期限前 償還されるかわからない状態で保有されており、しかも期限前償還のタイミングが為替相場に連動している債券である。これを“償還期限まで保有する積極的な意思”があるとはみなせないであろう。つまり、期限前償還オプションを想定したPRDC債を満期保有目的の債券に区分してはならないことを、日本公認会計士協会が指摘していると読むことができる。時価がない有価証券を満期保有目的債券に区分することについて、みずほ証券マーケット研究会による以下の指摘がある。
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「デリバティブ・証券化商品入門」(みずほ証券マーケット研究会)より引用 |
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・・・。ただし、時価評価の例外である満期保有目的債券に区分するためには、厳密な要件を満たす必要があります。つまり、@その債券が満期保有に馴染むこと(債券そのものの属性)に加え、A積極的に満期まで保有すること(意思と能力)も必要です。 このうち@債券の属性については、二つの要件を満たすことが必要です。一つの目的は、償還日が明確に定められているか、合理的に予測できることです。例えば、満期の定めのない「永久債」はこの要件を満たしませんが、発行者の意思によりいつでも償還できる「コーラブル債」については、合理的な予測ができる場合はこの要件を満たす可能性があります。 |
この解説でも、満期保有目的として扱うためには、厳密な条件を満たすことが求められていることがわかる。
問題となるのが為替の状況により期限前償還されるかどうか発行体の判断で決まるような状況を合理的といえるかどうかである。毎年の利払い期日が定まっていようとも、早期償還されるか否かが、為替の状況次第であり、円100%で償還されることを念頭にした資金計画を立てることには使えないであろう。つまり、合理的な予測にならず、本来、満期保有目的債券と区分してはならないものであろう。
有価証券の時価情報が貸借対照表の注記に義務づけられた2005年度以降、早稲田大学の決算報告書の貸借対照表の注記において、仕組債は満期保有目的の債券として区分されてきたようだ。しかも、その多くは期限前償還オプションをつけたものである可能性が極めて高いのである。つまり、早稲田大学の貸借対照表の注記は文部科学省が紹介している日本公認会計士協会の指針に沿っていないのだ。これについて、財務監査を担当してきた東陽監査法人(2007年度まで)と青南監査法人は一体どのようか見解をもち、どのような 意見表明をしていたのだろうか。
期限前償還オプション付PRDC債の購入では、「時価がない有価証券」で「満期保有目的の債券」という枠をうまく活用することが想定されていたと見られる。ところが昨今の円高傾向で期限前に償還される目途も立たなくなり、“塩漬け”を承知で責任回避、問題先送りのために、満期保有を強調し始めたと推測できる。そして、「早稲田では実損を出していないから他大学の損失が確定したところとは違う」とあたかも早稲田大学の資金運用が他大学よりも安定的であるかのような主張を繰り返している。それだけ安全・安心な資金運用ならば、ためらうことなくその詳細情報を開示できるたずである。それがなされないことが、早稲田大学の資金運用に不安がつのり、学外からも疑問の声がおこる所以である。
2008年度の大学決算報告書の貸借対照表の注記(1)7.(1)有価証券の時価情報 における「時価がない有価証券(うち満期保有目的の債券)」に関する注2には以下の記述がある。
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2008年度早稲田大学財政決算報告書の貸借対照表の注記7の注2 |
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注2:この計上額には、複合金融商品残高21,977,500,000円が含まれている。これを証券会社などの提示する「参考価格」で試算すると、その合計額は13,895,165,000円となる。しかし、この参考価格は満期保有目的を前提とした場合の「合理的に算定された価額」とするには相応しくないと判断されるため、当該複合金融商品残高を時価がない有価証券に含めて表示している。 |
学校法人会計基準に関する日本公認会計協会のQ&Aに有価証券の時価情報の注記方法について以下の説明がある。「・・・。ここでいう時価とは、取引市場が十分に確立されていない場合には市場価格に準ずるものとして合理的に算定された価格をいう。・・・・」 大学の上記の注記の注2は、正にこの文章の“合理的に算定された”を引用し、証券会社が提示する価格を合理的ではないと都合よく判断したとみられる。もちろん、この注記の注2は2008年度の監査を担当した青南監査法人も確認をしているはずである。しかし、監査法人による監査報告書にはこのことに関して何も書かれておらず、監査法人も大学が正しいと認めていることになる。しかし、このような説明で納得せよといってもとても無理な話である。
注記にある証券会社の参考価格に従うと、仕組債の合計元本約220億円に対して、平均の時価が約139億円、元本の63%にまで下落していると読むことができる。仕組債の中にも安全で運用益を出しているものもあり、その評価額が高いもののあるだろう。そうすると平均の時価が63%ということはそれよりも低い評価額となっている仕組債もかなりの額が当然あるはずだ。ただし、2008年度決算書の注記では約139億円を合理的に算出された価額ではないとして、それを「時価がない有価証券」に区分して逃げていると言える。この問題を具体的に指摘したのが、以下に紹介する週刊東洋経済2009年10月24日号のコラム記事である。
「週刊東洋経済」誌による指摘
週刊東洋経済の2009年10月24日号「本当に強い大学2009」の特集記事中で、1頁を割き、以下のタイトルでその批判をしている。
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週刊東洋経済2009年10月24日号Column(44頁)のタイトル |
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仕組み債には「時価がない」と決算で突っぱねた 早稲田の隠れた“含み損”80億円 |
コラム記事の冒頭は以下の文章で始まっている。
“それで許されるのか――。他の大学から驚きの声が上がったのが、早稲田大学の2008年度決算だ。”
そして、決算書の注記7の注2の記述を批判し、
“証券会社が当てにならないのなら、大学が独自に「合理的な時価」を算出して評価すればよいはずだが、「それは困難」(早稲田大学財務部)。だから、時価がないので時価評価しない、簿価と参考価格の差である80億円も含み損ではない、というわけだ。
参考価格によると下落率は40%強だが、「商品は複数。個別商品の詳細は開示していないが、『参考価格』でみれば50%以上下落している商品もある」(同)。50%の下落となれば、強制評価替えの対象になるはず。だが、あくまでも「時価はない」というのが早稲田大学の立場だから、減損処理は当然していない。”
更に、他大学の声が紹介されている。
“これに対して「ウチは監査法人から厳しく言われたのに“天下のワセダ”がそんなことをするのか・・・・・」という声が、他大学からは聞こえてくる。複数の公認会計士も、「少なくとも大手の大学では聞いたことがない」と首をひねる。
早稲田大学が2007年度決算でも2008年度と同様の処理をしていたことが取り上げられ、「時価がない有価証券」の注が「この計上額には元本毀損リスクのない複合金融商品が含まれている」という一文だけであったことが指摘されている。
さて、この週刊東洋経済の記事に関して、理事会は2009年度春闘団交の席で教員組合側からこの点を指摘されたことにに答えて、この記事に関して東洋経済新報社が“謝罪”をしたとの説明をした。しかし、教員組合が確認したところによれば、同社は記事は事実であるので謝罪はしていない、ということであった。理事会は春闘団交の席でウソの説明をしていたことになる。何故、このようなウソを団体交渉の場で言うのであろうか。
早稲田大学の財務監査を長年にわたって担当してきた2監査法人(東陽監査法人、青南監査法人)の内、準大手監査法人である東陽監査法人が2008年度の監査からはずれることになった。何故、2008年度の財務監査からはずれることになったのか。その理由については未だに説明されていない。
東陽監査法人は2007年度に日本公認会計士協会から大変厳しい問題指摘をうけ、金融庁の指導がなされている。東陽監査法人が財務監査からはずれたことについて、2009年度春闘団交における白井総長の発言によれば、東陽監査法人が早稲田大学の監査からはずれたのは、担当者の体調不良等が理由であると、わけのわからない説明をしている。挙句の果てに、“早稲田大学出身者に公認会計士がたくさんいるので・・・・”、とあたかも早稲田大学卒業生を監査人に依頼することを当然のごとく、付け加えていた。財務監査が厳正に行われるべきであるとの認識が欠落していることを象徴する大学トップの発言であった。
小規模な監査法人である青南監査法人1社で適正な監査ができているのだろうか。
両監査法人は早稲田大学年金の位置づけに関して、早稲田大学年金裁判で大学側が第一審で主張していた「法人格なき財団」という説をそのまま採用し、教員組合からの大学年金の会計的質問に回答せずに大学年金の法的位置づけについて弁護士のような意見を表明した(大学年金ニュース第21号参照)。しかし、大学は年金裁判の控訴審に入って、その冒頭で「年金基金が法人格なき財団である」とする説を撤回した。この監査法人の対応は、大学の意向にそった見解を監査法人として表明したことの過去の事例である。このような事態が起こったことを考えると早稲田大学の財務監査が厳正に行われているとは到底理解できない。また、2008年度決算から小規模監査法人1社になったことを考えても同様である。
大手監査法人による財務監査が急務である!
約1000億円の早稲田大学の資金運用は、財務担当常任理事、財務部長、資金運用担当課長の3名により完全にコントロールされている。大学理事会での運用方針の審議・決定を経ることなく、財務担当常任理事の決済ですべてができるようになっている。唯一の義務として資金運用の結果を理事会に報告することが定められているだけである。
しかし、小林栄一郎財務担当常任理事と財務部長の団体交渉での説明を聞く限り、専門レベルは決して高いとはみなせない。素人が聞いていてもおかしな回答が多々ある状況である。“あなた方は素人だから、専門家の私たちに任せなさい。”といった傲慢な姿勢が端々に感じられる。金融商品のセールスマンにだまされる可能性が危惧される人物である。そして、白井総長は財務担当常任理事を指名(その後、評議員会の同意を得ることが必要)したことの責任のみを自覚しているだけで、その後は常任理事に丸投げの状態である。
そして、3人で運用している体制の方が責任はより明確になるといういい加減な説明をしている。2009年2月12日の職員組合との懇談会での説明を下記に紹介する(職員組合ニュースNo.1580より)。
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財務部長による運用管理体制に関する説明 早稲田大学職員組合ニュースNo.1580頁4より引用 |
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6)運用管理体制について 早稲田の場合は、財務担当常任理事に有価証券取得に関するすべての権限がある。実際には財務担当常任理事に加えて財務部長、資金運用担当副部長の3人のラインで決定している。よく投資委員会を設ける方が良いのではという意見もあるが、現在の運用は、為替リスクはとっているが債券主体のインカムゲイン狙いであり、より変動の激しいキャビタルゲイン狙いの株式では、運用のメインではない。債券運用では、マクロ経済、金利・為替などの金融情勢を把握すれば良く少人数でもできるが、株式は個別企業の情報を全部追いかけなくてはならなくなり、今の体制では難しい。委員会にすると船頭が多くなり、また責任があいまいになる。現在の投資対象規模であれば、ラインでやったほうがいいし、責任がみえやすい。 |
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注1:資金運用担当部長とあるが、学内組織の役職名は資金運用担当課長であり職位が副部長級ということである。 注2:下線、赤字は「知る会」による。 |
まず、この説明で決定的におかしいのは、資金運用当事者である財務部長が、あるべき運用体制について見解を述べていることである。本来ならば、運用体制は理事会で審議し、理事会決定に基づいてその監督下で財務部長等が職務として行うべきものである。しかも、資金運用についての監視体制が法人内になければならないはずだ。そうでなければ、これら当事者の暴走を防ぐことができない。しかしながら、早稲田大学では正に財務部長の説明の通りの異常な体制になっており、そこで約1000億円の資金運用の決定がなされているのである。早稲田大学理事会は、資金運用に関する法人としての意思決定について一体どのような基本方針をもっているのだろうか。
更に、おかしな説明は、財務担当常任理事・財務部長・資金運用担当課長の3人で運用を決定する方が“責任がみえやすい”と述べている点である。“責任がみえやすくても”、責任をとることができないのでは意味がない。また、責任逃れをされては困る。彼ら3人で本当に約1000億円の資金運用の結果責任を負うことができるはずがない。それはどんなに彼ら3人が裕福であろうともとても無理なことである。
しかも、資金運用に関する情報開示が決定的に不十分である。評議員会にすら詳細情報が開示されていない。むしろ職員組合との懇談会の方が評議員会より詳しく説明されたくらいである。この3人体制での巨額の資金運用を肯定することは、実質的に責任体制をもたないことと等しく、資金運用業務に問題があったとしてもそれを有耶無耶にすることになる。最終的に資金運用で損失を出したとしても、学内規則上は“●●億円損失となりました。済みませんでした。”という理事会での報告で終わってしまう構造である。無責任体制の極致である。運用の原資が、奨学基金・研究基金引当資産、施設整備資金等引当資産、退職給与引当資産等であることを十分自覚すべきである。もし、これらを原資とする資金運用で大きな失敗をした場合、どのような直接的影響が出るのか想像に難くない。利害関係人から訴訟でも起こされない限り、現在の早稲田大学理事会はこのような体制を継続するのであろう。
この財務部長の説明は学校法人早稲田大学として極めておかしな認識である。最終的に責任を負うのは大学理事会と総長である。また、理事会には担当理事の職務執行を監督する義務がある(学校法人早稲田大学校規第15条)。財務担当常任理事の職務であろうと理事会はその業務を監督しなければならない。つまり、担当理事に任せっ切りではいけないことを「校規」が定めている。しかし、早稲田大学理事会では、そんな自覚もなく、厳しい審議もせずに、諸々の決定がなされてゆくのであろう。
また、財務部にあるといわれている資金運用内規について、以下の説明がある。
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財務部長による運用内規に関する説明 早稲田大学職員組合ニュースNo.1580頁3より引用 |
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3)資金運用内規について 1991年7月から資金運用内規にもとづいて、資金運用が行われている。その目的は「安全かつ有利に運用することによりその収益を財源として本学の教育研究を発展させ、教育研究条件の拡充をはかること」としている。2005年5月からペイオフが解除されたことにより、銀行の普通預金も100%元本が保証されるということはなくなった。何をやるにもリスクはあり、どこまでリスクをとるのかということになる。すべての運用商品は元本リスクをともなうが、リスク・リターンに応じた適正な資産配分、分散投資によってリスク管理をおこないながら運用法の構築をめざしてきた。 |
このときの職員組合との懇談会の席上でも、「資金運用内規」の文書の配布はなかったそうである。スライドを用いた説明で「内規」をあっさりと提示した程度だそうである。何故、コピーを提供しなかったのだろうか。そもそも、財務部にあるといわれている「資金運用内規」は一般教職員には見えないようになっている。評議員会にも提示されていない。したがって、本当にその内規が存在するのか否かも確認できない。一般教職員がアクセス可能な関連規則としては下記の「経理規程」のみである。以下にその関連条文を示す。
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経理規程の一部 |
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「経理規程」中の関連条文 (金融機関との取引) 第22条 銀行その他の金融機関と取引を開始または停止するときは、担当理事の承認を得なければならない。 第23条 有価証券を取得または処分するときは、担当理事の承認を得なければならない。ただし、法令に基づいて引き受けなければならない電信電話債券等の引き受けについては、この限りでない。 2 有価証券の評価は、原則として取得価額による。ただし、時価が取得価額より著しく低く、かつ、取得価額まで回復の見込みがないときは、時価により評価する。 3 有価証券は、金銭に準じて取扱う。 |
学内教職員が知ることが可能なレベルでの規則として、「資金運用規程」が作られることが必要である。
財務部長の説明によれば、1991年7月から「内規」に基づいて運用されているとのことだ。その内規は、どの程度具体的な条文を盛り込んだものなのであろうか。仮に内規が作成されたのが1991年7月とすると約20年も前ということになる。この間、資金運用の環境は大きく変わっている。それに対応する変更をしてきたのだろうか。いずれにしても現在あるとされている「資金運用内規」が早急に開示されることが求められている。これを秘密規則としておくことが許されてはならない。そして、学内規則として資金運用規程を作成し、運用体制、運用方針、チェック体制、責任体制を整備することが急務である。
早稲田大学では、上の8.で解説したような財務担当常任理事・財務部長・資金運用担当課長の3名の体制で約1000億円の資金運用をしているわけである。このような体制が異常であることは誰もが認めることであろう。2008年度大学決算書の中の大学監事の監査報告書には、この点に関して具体的に立ち入った指摘があった。下記である。
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2008年度監査報告書における大学監事の見解 |
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2.監査の結果 (4)学校法人は、厳しい経営環境下にあり、次の事項を検討することを求めます。 A大学の資産運用の透明性をより高めるため、「資産運用委員会」を設置すること。 |
2009年度春闘団交において、上記の監事の指摘に関する問題が取り上げられた。このとき、白井総長は2008年度監査報告書における監事の指摘を一蹴し、“「資産運用委員会」を作るつもりはない”ことを断言した。監事が指摘しているにもかかわらずどうして委員会を作らないのだろうか。これでは監事による業務監査の意味がない。委員会をつくれば、当然、これまでの資金運用の実態が明らかになる。それでは困る理由があるのではないかと勘ぐらざるを えなくなる。より安全な資金運用のためには、透明性を高めることが必須である。
白井総長の発言は、大学の社会的責任、学校法人に求められる財務の透明性を無視した、開き直りの見解と言える。学生納付金、税金である補助金、浄財である寄付金を主たる収入として運営されている学校法人のこのような傲慢な姿勢は許されるものではない。
世の中では、仕組債の一例であるPRDC債による資金運用により、多額の損失を出した地方自治体や大学の多くの事例が知られている。国会でもこの問題が取り上げられた。昨年、2009年6月11日の参議院の財政金融委員会の質疑のなかで、民主党大久保勉議員と与謝野馨金融担当大臣(当時)とのやり取りは興味深い。大久保議員は金融商品取引法による投資家の区分、特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)を取り上げ、仕組債等のセールスをする金融機関側の問題として、地方自治体の実例を挙げ、またPRDC債等を売った金融機関の名前を具体的に上げて質問をしている。
国会でのこの論議の視点は、最近、報じられた米国金融大手のゴールドマンサックス証券がサブプライムローン関連の証券を重要情報を隠して投資家に販売したとされる証券詐欺の疑いで、米国証券取引委員会(SEC)が同証券を訴追した件と共通した問題がある。仕組債などを販売する側の金融機関の説明責任の問題である。金融商品取引法におけるいわゆる「プロ」と「アマ」の問題についてはデリバティブ取引における行為規制として知られており、福島良治(2008:「デリバティブ取引の法務と会計・リスク管理 第2版」、きんざい刊)に詳しく解説されている。
参議院財政金融委員会でのやり取りの一部をここで引用紹介する(早稲田大学教員組合ミニ・ニュース速報No.6、2010年3月日)でも一部が紹介されている)。以下のURLのページがその時の議事録である。この財政金融委員会での質疑は、PRDC債による資金運用で評価損を出した地方自治体の事例を問題視したものである。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/171/0060/17106110060020a.html
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第171回国会参議院財政金融委員会 第20号(平成21年6月11日)議事録より抜粋引用 注:下記議事録中の赤色文字・下線は「知る会」による。 |
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○大久保勉君 分かりました。是非努力をお願いします。 ・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・
○大久保勉君 実は、こちらの委員長、横尾委員長の方からこの書類をいただきました。これを事前に総務省及び金融庁に渡しまして、内容を精査してもらっています。当然これは議会の報告書ですから公的な性質がありまして、お配りすることもできます。一部抜粋した資料が添付されています。 ・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・
○大久保勉君 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・
○大久保勉君 かみ合わないですね。元本割れをしないのは当然であり、必要条件であって十分条件じゃないということじゃないですか、今議論しておりますのは。 ・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・
○大久保勉君 金融庁はそういう甘いことを言うから、十ページを御覧ください。もうそこまできっちり考えて、こういう文言が入っています。右側の一番上、三、有価証券の取得と保有に関する事項。一、当社、当法人、これは朝来市、朝来市に適用される法令その他の規則、監督官庁の指導及び内部規定に照らし問題がないことを確認した上で本債券を買い付けること。つまり、すべての責任を朝来市に渡してしまって自分たちは一切知らぬ存ぜぬになっているんじゃないですか。
○国務大臣(与謝野馨君) 元々、市長は四年しか任期がないのに自分の責任の範囲を超えた三十年物を買うということ自体が非常識なことだと思っております。それからもう一つは、地方自治体にそんなにお金が余っているというのは私にとっては意外な事実でございまして、財務大臣としては、地方交付税を考えるときにはいっぱいお金を持っているんだということを前提に考えざるを得ない。 そもそも、市がこういう自分の余った金を運用するのは、一時的にお金を放置しておくことがもったいないと、若干でも金利等を稼いでおこうということなんで、あくまでも一時的な投資としてそういう資金運用ということはあり得ても、やっぱりそれが著しく流動性を欠いていて、いざお金が必要なときにその債券が売れないことが、非常に可能性が高いということが書いてあるような商品を買うというのは、元々この市長様の判断は間違っていたというふうに私は感じるわけでございます。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・
○国務大臣(与謝野馨君) 売る方は必死で商品を売っていますから、多分上手に売ったんだと思いますが、買う方もやっぱり自分の立場をわきまえてきちんと判断しなきゃいけなかったと思います。 |
PRDC債なの仕組債が危険な資金運用であることを警告する声はかなりある。PRDC債などが内包するリスクを理解して購入しているか否かが問題であるが、それがいい加減 なままに購入されているケースが多々あるようだ。この章ではPRDC債等の仕組債による資金運用への注意喚起をしているいくつかの声を紹介する。
文部科学省による注意喚起
学校法人による仕組債等の資金運用の問題が明るみに出た直後、文部科学省は2009年1月6日付で高等教育局私学部参事官の通知として、学校法人運営調査委員会の資産運用に関する意見を所管の各学校法人理事長宛てに送っている。以下が文部科学省のHPから入手したその学校法人運営調査委員会の意見書である。
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各学校法人理事長宛ての文部科学省高等教育局私学部参事官による通知 (文部科学省ホームページより引用) |
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平成2 1 年1 月6 日 学校法人運営調査委員会 「学校法人の資産運用について」(意見) 一般に学校法人がどのような方法で資産の運用を行うかについては、各学校法人が寄附行為や関連諸規程等に従い、自らの責任において決定するものである。その際、資産の効率的な運用を図ることが一般論としては求められるが、一方で、学校法人の資産は、その設置する学校の教育研究活動を安定的・継続的に支えるための大切な財産であるため、運用の安全性を重視することが求められることは言うまでもない。学校法人の運営は、学生生徒等の納付金、善意の浄財である寄附金、国民の税金からなる補助金によって支えられていることを忘れてはならない。 学校法人の資産運用の形態としては、預金や公共債(国債・地方債・政府保証債)等の保有のほか、近年、仕組債やデリバティブ(金融派生商品)取引などの新たな金融商品による運用も目立つようになっている。特に、デリバティブ取引は、金融の自由化、国際化の流れの中で、金融・証券市場で大きく拡大しており、市場における金利や為替の変動リスク回避の手段として利用されるほか、それ自体が投資目的としても利用され、少ない投資金額で多額の利益を得うる反面、多大の損失を被るリスクもあるとされる。仕組債も一般にデリバティブが組み込まれた債券とされ、必ずしも元本保証のあるものではない。学校法人としては、現下の国際金融情勢等も十分に踏まえ、元本が保証されない金融商品による資産運用については、その必要性やリスクを十分に考慮し、特に慎重に取り扱うべきである。学校法人の理事長を含む理事は学校法人に対して善良な管理者の注意義務を負っていること、また資産運用に従事する学校法人職員もその職責に相応する注意義務を負っていることを再認識する必要があろう。 以上のように、公教育を担う学校法人の資産運用については、その安全性の確保に十分留意し、必要な規程等の整備を行い、学校法人としての責任ある意思決定を行うとともに、執行管理についても規程等に基づいて適正に行うなど、統制環境の確立に努める必要がある。具体的には、学校法人経営の最終的な意思決定及び理事の職務執行の監督を掌る機関は理事会であることを前提とした上で、資産運用関係規程の整備等を通じ、@安全性の重視など資産運用の基本方針、A理事会・理事長・担当理事・実務担当者など資産運用関係者の権限と責任、B具体的な意思決定の手続、C理事会等による運用状況のモニタリングなど執行管理の手続、D教育研究活動の充実改善のための計画に照らした資産運用の期間及び成果の目標、E保有し得る有価証券や行い得る取引等の内容、F資産運用に係る限度額等の明確化に努めるなど、資産運用に係る意思決定と執行管理の一層の適正化を図ることが重要と考える。 各学校法人には、資産運用に関する責任ある意思決定と執行管理が行われる体制を確立されるよう、不断の点検を求めたい。 |
小藤康夫(2009)「私立大学の資産運用と仕組み債」(専修大学商学研究89号)
最近の私立大学の仕組債を用いた資金運用問題に関して、小藤(2009)は新しい金融商品としての仕組債の一つであるPRDC債の特徴を詳しく解説し、内在するリスク等を含め た具体的な問題指摘をしている。早稲田大学の資金運用の方針と体制に対しても参考になる貴重な内容である。いくつかの指摘を以下に紹介する。
“PRDC債は為替相場の動きに大きな影響をうける仕組みになっている。そのなかで円安・ドル高が予想される場合、他の金融商品では見られないような高利回りが得られることになる。
そのため円安・ドル高傾向のもとではPRDC債は魅力的な金融商品に感じられるであろう。私立大学が積極的に仕組み債を購入したのも、為替相場がそのような方向へ進んでいくと予想したためでもあった。”
PRDC債を購入する魅力の一つとして元本保証があったことも指摘されている。その一方で投資家に不都合な条件として、
@ 発行体側が強制的に早期償還できる仕組み。
A 転売できないこと。
を、PRDC債がもつ問題点として挙げている。そして、以下のようにまとめている。
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小藤(2009)専修大学商学論集89号、98頁より引用 |
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表向き、元本保証が前面に出され、為替相場の動きによっては高利回りが生み出される魅力的な金融商品のように見えるPRDC債であるが、相場が急変した場合、償還リスクや流動性リスクが顕在化するなど、投資家が購入するにあたって注意しなければならない条項が含まれている。 だが、残念なことにはほとんどこうした制約を考慮しなかったのが当時の私立大学の仕組み債への理解だったように思える。 |
また、評価損を抱えたまま、損失を確定せずに、満期保有であるから問題ないとの説明をする早稲田大学のような立場に対しても、以下のように批判している。
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小藤(2009)専修大学商学論集89号、98−99頁より引用 |
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その一方で、巨額の評価損を抱えたまま解約せずにいる私立大学は損失を確定した私立大学よりも多い。そうした私立大学は仕組み債に備わっている元本保証を強調し、運用の失敗を認めようとしない。つまり、確かに含み損を抱えているが、満期まで保有し続ければ元本がそのまま保証されるので、問題ないと考えているのである。 だが、こうした考え方は資産を運用するうえで、好ましいとはいえないであろう。なぜなら、簿価で捉えているからこそ損失が発生していないように見えるが、時価で捉えれば損失が具体的な数値となって現れてくるからである。 |
そして、以下のように結論付けている。
“時価は運用担当者自身がその成果を把握できるだけでなく、理事会に報告するためにも必要な要件である。このことを考えれば、時価が把握しにくい仕組み債は私立大学の運用対象として馴染みにくい金融商品であったと思われる。”
3.吉本佳生(2009)著「デリバティブ汚染」での厳しい指摘
吉本佳生(2009)は、PRDC債等を用いた地方自治体や私立大学による資金運用の実態を詳細に取り上げ、その危険性に警鐘を鳴らしている。PRDC債等については、まず以下のような指摘がある。
“実際には、PRDC債やFXターン債は「あまりに危険であるがゆえに、最初だけ高金利になっている金融商品」だ。それなのに安全そうにみえるという意味で「安全偽装」を施した欠陥金融商品でもある。”(同書122頁より引用)
●早期償還オプションについて:
PRDC債等の仕組債には満期前に償還されるオプションが付いていることが多い。このことが仕組債を買う側にどのように理解されているのかは大変重要である。期限前償還(早期償還)については、以下のような指摘がある。
“投資をする側は換金(償還)時期を選べず、原則として、金融機関や債券発行者の側に都合がいいタイミング―裏返して言えば、地方自治体などの投資家側にとっては都合が悪いタイミングで償還されてしまう点が、この仕組債の一番重要な性質だ。これを「早期償還条項」などと呼ぶ。”(同書40−41頁より引用)
この指摘は仕組債を用いた資金運用で大変重要な意味をもっている。「早期償還条項」については、これまでの早稲田大学理事会の説明では、あたかも投資家側に当たる早稲田大学側の権限で行使できるかのような印象を与えている。つまり、為替レートが悪い方向に動いた場合に早期償還できるから安心であるというように取られる可能性があるのだ。しかし、実際には全く逆なのである。吉本(2009)「デリバティブ汚染」では、早期償還条項について、“この条項の威力(強烈な毒性)・・・”(同書41頁)と表現している。
●小林財務担当常任理事の発言批判
吉本氏は、週刊ポスト2009年4月17日号での小林栄一郎財務担当常任理事による下記発言、
“評価損と実現損はちがう。満期まで100%持つつもりですから、損失が確定したというのではない。誤解しないでください。”
を取り上げ、早稲田大学が資金運用の損失を確定しないで問題を先送りしていることに対して、以下のような大変厳しい評価を下している。
“このコメントをした理事は、大手銀行の元副頭取だという。経歴だけみれば、金融の専門家のようにみえるが、さて読者はどう感じただろうか。そもそも早稲田大学の場合は、資産運用での巨額の評価損失をずっと隠蔽しようとしてきたのだ。また、この理事は「慶應とは全然ちがいます」とも言ったようだ。
たしかに早稲田と慶應は大きく異なる。・・・・・中略・・・・・ 慶應は公式の報告書で評価損を公表している。2008年の夏以降、慶應のホームページをみれば、誰でも評価損の金額を知ることができた。慶應のほうが、まだ早稲田よりずっとマシなのだ。”(同書83〜84頁)
教員組合側からの強い要求(教組発第1074号)に応えて、大学理事会はようやく、2010年3月19日の春闘団交の直前に1つの仕組債についての資料を提示してきた。ただし、理事会から提供された資料はわずか2枚であった。この債券は日興コーディアル証券が2008年4月に販売した豪ドル建ての仕組債である。この資料だけでは、該当する仕組債の全容は把握できない。
金融商品取引法上の投資家区分:
2010年4月19日の春闘団交において財務部長は、早稲田大学は一般投資家として仕組債を購入していると断言した。金融商品の販売に関して、投資家の保護と金融商品取引業者の説明責任を観点から、金融商品取引法は顧客を特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)に区分している。学校法人は申し出により特定投資家に移行できる一般投資家に区分されている。契約ごとに申し出により移行が可能となっている。財務部長が金融商品の購入契約締結において一般投資家(アマ)の立場であると明言したことから、債券売出人である日興コーディアル証券には、特定投資家にに販売する場合以上の条件が課せられる。その一つが、金融商品取引法第37条の3で定められ、特別な場合を除いて交付が義務付けられている契約締結前交付書面である。この書面を見れば、契約締結前にどのような金融商品として説明されていたのかをある程度把握することが可能である。同法第37条の3の条文を以下に紹介する。
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金融商品取引法第37条の3 |
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(契約締結前の書面の交付) 第37条の3 金融商品取引業者等は、金融商品取引契約を締結しようとするときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。ただし、投資者の保護に支障を生ずることがない場合として内閣府令で定める場合は、この限りでない。 1.当該金融商品取引業者等の商号、名称又は氏名及び住所 2.金融商品取引業者等である旨及び当該金融商品取引業者等の登録番号 3.当該金融商品取引契約の概要 4.手数料、報酬その他の当該金融商品取引契約に関して顧客が支払うべき対価に関する事項であつて内閣府令で定めるもの 5.顧客が行う金融商品取引行為について金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動により損失が生ずることとなるおそれがあるときは、その旨 6.前号の損失の額が顧客が預託すべき委託証拠金その他の保証金その他内閣府令で定めるものの額を上回るおそれがあるときは、その旨 7.前各号に掲げるもののほか、金融商品取引業の内容に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定める事項 |
財務部長が明言した、一般投資家として契約を結んでいるということに誤りがないとすれば、早稲田大学は今回提供された資料に対応する仕組債の契約締結前交付書面を保有しているはずである。しかしながらその開示はなかった。
開示された1つの仕組債の部分情報:
提供された資料に対応する仕組債はフィンランド地方金融公社が発行するユーロ円債券、
「フィンランド地方金融公社2038年4月18日満期
早期円償還条項付 満期豪ドル パワー・デュアル債券」
であると見られる。ここで、あえて断定しないのは大学が公表した資料だけでは名称などを含め必ずしも十分な情報が得られないためである。発行日が2008年4月なので30年満期の債券である。「ユーロ円債券」のユーロは通貨ユーロとは無関係であり、日本以外の国際金融市場で発行される円建て債券を意味する用語であり、注意が必要である。
今回提供された資料に対応する仕組債は一般的に説明されているPRDC債ではなくPDC債(パワー・デュアル債、パワー・デュアルカレンシー債)のようである。財務部に保管されているはずの契約書・約定書、「契約締結前交付書面」を開示していればこのようなあいまいさは排除された。
提供された資料をもとにこの仕組債の概要をまとめると以下の通りである。
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春闘団交(2010年4月20日)の直前に提供されたある仕組債の概要情報 |
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売出人 |
日興コーディアル証券株式会社 |
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発行体 |
フィンランド地方金融公社 |
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発行額 |
10億円 |
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額面金額 |
1億円 |
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発行日 |
2008年4月18日 |
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満期償還日 |
2038年4月18日 |
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満期償還金額 |
豪ドル2,222,222.22 |
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期限 |
30年 |
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利率 |
当初1年間: 5.00%固定 以降29年間:円-豪ドルの為替レートに応じで変動。その算式は以下 13.00 − FX÷換算為替 − 10.00% |
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換算為替 |
豪ドル1=75.00円 |
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利払い通貨 |
円 |
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償還通貨 |
豪ドル(満期償還) |
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早期償還条項 |
コール条項I及びコール条項II (下記を参照) |
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ターゲット為替 |
2011年4月:豪ドル1=77.45円 2012年4月:豪ドル1=75.95円 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 2037年4月:豪ドル1=38.45円 |
コール条項についての理事会の理解:
情報が部分的に開示された上記の仕組債についてはコール条項が2つある。以下である。
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コール条項I |
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発行後1年経過時点のコール日及び発行後2年経過後のコール日において、額面100%の円貨早期償還する権利を発行体が有します。 |
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コール条項II |
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発行後3年経過のコール日から(2037年4月18日)までの各コール日における為替観察日の参照為替がターゲット為替以上の円安・豪ドル高の場合、発行体はコール日に額面の100%で早期償還致します。 |
これについて、2010年4月19日の春闘団交において、公表された一部資料の中にあった“コール条項II”の理解についてのやり取りがあった。この仕組債のコール条項IIは、発行後3年経過後に毎年4月のコール日に一定以上の円安・豪ドル高の場合に早期償還するという条件であり、1年毎、最終的には満期の1年前まで早期償還する条件となる豪ドルレートが定められている。つまり、高い金利が得られる円安環境になればすぐに償還され、高い金利を継続して得ることができない仕組みになっている。財務部長は、「この“コール条項II”は、早稲田大学が早期償還できる権限をもっている。」という説明をした。教員組合側は、その理解は全く逆であるとの指摘をしたが、財務部長は「コール条項IIはそのように読むべきなのだ!」とまで言い張り、教員組合側の指摘を受け入れなかった。
しかし、“コール条項”と書かれているから分かるように、これはいくつかのコールオプションを記述したものであることは明確である。コールオプションとは債券を“買う権利”であり、早稲田大学側がその権限をもっているはずがない。早稲田大学側の判断により、都合の良い状況で早期償還されるためには、プットオプション(売る権利)になるはずであり、それををわざわざコール条項として記載することはあり得ないことだ。
このようなとんでもない、間違った説明を専門家であるはずの財務部長がするようでは、仕組債の購入でも騙されている可能性が危惧される。今回開示された仕組債の売出人は日興コーディアル証券であり、10.で紹介した2009年6月11日の参議院財政金融委員会で地方自治体の仕組債による損失に関連して売り手側の問題として取り上げられた金融機関の1つである。
開示された1つの仕組債の場合には運用益を出していて比較的に安全なものであるとみられる。現在の豪ドルレートを考慮すると、現時点で5%程度の金利がえられているはずであるが、このまま豪ドルレートが推移すれば、多分、2011年4月には期限前償還されるであろう。2008年度の決算書に記述されている、証券会社による仕組債約220億円の評価額が約139億円であることを考えると、平均で時価(大学は証券会社の参考価格と呼んでいる)が元本の63%に低下していることを意味しており、今回一部の情報が開示された仕組債のような債券の存在を考えれば、平均の時価63%よりもかなり下回る仕組債が存在すると見なければならない。その中には時価評価額が50%を下回るものが含まれる可能性が十分に考えられ、会計規則上あるいは早稲田大学の経理規程に手照らしても時価で評価しなければならないはずである。既に、8.で紹介したが、早稲田大学経理規程では以下のように規定されている。
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経理規程第23条 2 有価証券の評価は、原則として取得価額による。ただし、時価が取得価額より著しく低く、かつ、取得価額まで回復の見込みがないときは、時価により評価する。 |
5月28日(金)に予定されている、2010年度の第1回評議員会において、2009年度の大学決算が報告される。ここでの資金運用に関してどの程度詳細な説明がなされるのかが注目される。以下の点に注目すべきである。
1. 資金運用に関係する貸借対照表の注記がどのようになされるか。2008年度決算と比べどのように変化するのか。より詳細な情報が提供されるのか。
2. 2008年度の監査では監査法人は青南監査法人1社であった。2009年度の監査も同様であるか。その場合、小規模監査法人1社で全財務監査を行っていた場合、その理由についての説明はあるのか。
3. 資金運用の主たる部分を占める仕組債を2008年度までと同様に「時価がない有価証券」として扱うのか。
4. 2008年度に証券会社がつけた仕組債の価格を参考価格として合理的価額ではないとして時価評価を拒否した扱いを2009年度も再び行うのか。そうした場合、監査を担当した監査法人は何も監査人としての意見表明をしないのか。
5. 資金運用の主たる部分を占める仕組み債を2008年度までと同様に「満期保有目的の債券」として扱われるのか。
6. その場合、日本公認会計士協会が定めている学校法人会計の指針に反するかどうかの説明がなされるか。
7. 資金運用の詳細情報が提示されるか。「時価がない有価証券」の具体的内容は何か。「満期保有目的の債券」の具体的内容は何か。CDO(資産担保証券)等を本当に購入していないのか。現時点で明らかになっている仕組債の購入先は日興コーディアル証券だけであるが、全ての債券をここから購入しているのか。他社からも購入しているとすれば、それはどこか。
8. 小林担当常任理事が米国系金融機関(AIGスター生命)の顧問を兼務していることについて役職上の相反関係ににならないかどうかの指摘がかされるか。
9. 2008年度の監事の監査結果にあった指摘“大学の資産運用の透明性を高めるため、「資産運用委員会」を設置すること。”を無視して、現理事会がその設置をしなかったことに対して追及はあるのか。
10. 財務担当常任理事、財務部長、資金運用担当課長のわずか3名で大学資産の1000億円の運用を行っている実態に対して問題指摘はあるのか。
2008年11月の駒澤大学の仕組債による資金運用による約154億円の損失が、新聞各紙に報じられるまで、私たちは大学の資金運用に関して十分な監視を目をもっていたとはいえない。その後、数多くの大学で資金運用の問題が報じられ、深刻な状態になっている大学があることもわかってきた。
早稲田大学の小林財務担当常任理事が、2008年12月の月刊「現代」に早稲田大学の資金運用に関して語ったことが、問題を明るみに出すことになった。この時点で、約1000億円の余裕資金の内約700億円の仕組債を保有し、運用益を出していること、今後5年で原資を倍増し、将来2000億円もの資金運用を計画していたことなどが明るみに出てきた。その後、2008年度には仕組債は約219億円とのことになった。しかし、貸借対照表に記載されている有価証券保有残高は約617億円となっている。
そして、その後徐々に情報が出てくるにつれ、早稲田大学の資金運用に危惧の念を抱かざるをえないこともわかってきた。しかしながら、現時点でも資金運用に関する情報は決定的に不足しており、正しい認識ができない状況である。早急に、早稲田大学が保有する仕組債等について、契約締結前 交付書面、契約書、約定書、目論見書等が開示される必要がある。
以下に問題点をまとめておく。
l 決算書の貸借対照表の注記は、2005年以降資金運用に関する情報を提示しているが、その記述は資金運用が安全であるか否かを判断する観点からするとまったく不十分である。
l 早稲田大学の資金運用に関する情報開示レベルは極めて低く、現状でも実態把握が困難である。
l 情報開示が極めて消極的であることから、資金運用の失敗でがるのではないかとの疑念が常に付きまとっている状態である。
l 大学によるいくつかの説明には、納得できない「おかしな説明」があり、また一貫性のない説明もあり、これらのことが資金運用の失敗との印象を更に助長している。
l 保有している有価証券の決算書への注記に関しては、財務監査を担当している監査法人が本来適切に指摘をしているはずである。しかし、マスコミからも批判を受けるような状況であり、監査に関する問題も浮き彫りになっている。
l 満期保有目的は運用失敗の責任逃れと問題の先送りのために使われている。
l PRDC債等仕組債が、早期償還されずに長く保有されているということは、早期償還条件を満たしていないということであり、債券自体の価値が大幅に低下しているという意味である。PRDC債などの仕組債は30年もの長期間保存してはならない債券なのである。
結論と提言
早稲田大学の資金運用は各種問題点を総合すると極めて危険な状況にあると認識すべきである。速やかに資金運用に関する十分な情報を開示し、運用の実態を正確に把握することが急務ある。更に、運用による損失の確定も含め、現状への適切な対応を行う必要がある。
学校法人としての早稲田大学の社会的立場と責任を十分に認識し、学校法人として適切な資金運用の方針を確立し、透明性が高くかつ責任の所在が明確な、新たな資金運用体制を構築することが求められている。
問題の先送りと責任逃れを続けるならば、早稲田大学は近い将来、危機的状況に陥る可能性すらある。
l 井上久夫(2008)、早稲田大学「周回遅れの改革」と「DNA」の行方、月刊「現代」2008年12月号、講談社。
l 金融ビジネス2008年秋号(2008年10月24日発行)、東洋経済新報社
l 小藤康夫(2009)、私立大学の資産運用と仕組み債、専修大学商学論集、第89号、93−101頁。
l 柴崎百合子・山田雅章(2004)、「パワー・リバース・デュアル・カレンシー債の数理(1)〜商品の特徴とリスク〜」、大阪証券取引所レポート、2004年3月
l 第171回国会参議院財政金融委員会第20号(平成21年6月11日)議事録。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/171/0060/17106110060020a.html
l 日本公認会計士協会(編)(2008)、学校法人会計小六法平成20年版、中央経済社。
l 福島良治(2008)、デリバティブ取引の法務と会計・リスク管理、きんざい。
l 福光寛(2007)「私立大学の財務と経営について」成城大学経済研究、第175・176合併号。
l みずほ証券マーケット研究会(2008)、デリバティブ・証券化商品入門、東洋経済新報社。
l 山田雅章(2004)、「パワー・リバース・デュアル・カレンシー債の数理(2)〜価格形成理論と非完備市場〜」、大阪証券取引所レポート、2004年6月。
l 吉本佳生(2009)、デリバティブ汚染−金融詐術の暴走、講談社BIZ。
l 早稲田大学(2009)、本学の資金運用の方針と現状について、Campus Now 2009年盛夏号、8-10頁。
l 早稲田大学(2009)、知って納得!大学の資金運用、早稲田ウィークリー、通巻1196号、2-3頁。
l 早稲田大学教員組合執行委員会(2010)、学校法人会計と仕組債――満期保有目的の問題、ミニ・ニュース速報、No.8、2010年4月19日。
l 早稲田大学教員組合執行委員会(2010)、公共組織の資産運用の問題、ミニ・ニュース速報、No.6、2010年3月9日。
l 早稲田大学教員組合執行委員会(2010)、早稲田大学の資産運用の問題点、ミニ・ニュース速報、No.3、2010年1月20日。
l 早稲田大学職員組合執行委員会(2009)、世界的金融危機のもとで大学の資金運用のあり方をただす、職員組合ニュース、No.1580.
以 上
関連ニュース
2008年11月27日 ニュース第69号:「仕組み債」による700億円の大学資産運用の危険
決断を遅らせる程傷は深くなる、しかし既に手遅れなのかもしれない!
私立学校法第47条の趣旨に基づき資産運用情報の早急な開示を!
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発行年月日:2010年4月30日(前号:第71号 次号:第73号) 発行:早稲田大学の年金を知る会(代表:神崎巌)・大学年金を考える学内有志 作成者:ニュースは2004年度教員組合「年金問題調査委員会」のメンバーが中心となって作成されています。
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最終更新日:2010/05/25
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